精密機械部品から専用機設計製作まで! フレキシブルな製造現場を構築した豊田製作所
精密機械部品・専用機設計製作で厚い信頼を得ている豊田製作所(社長=長久保伸一郎氏、本社:神奈川県川崎市)。第一工場には通年20℃の恒温室を設けており、ここにはYASDA横治具フライス、オークマMC、三菱ワイヤーカット、三菱型彫放電加工機、ミツトヨ3次元測定機が設置されており、他にも多様なユーザーニーズに応えられるように設備機械が充実している。納入先は主に自動車メーカー、電機メーカー、工作機械メーカー、医療機器メーカーなど一流どころがズラリと並び、加工精度には高い評価がある。
「お客様が困っているときにお助けできるよう、難加工に力を入れています」という長久保社長。同社では他では引き受け手の見つからない加工を得意としており、加工の責任者である高橋 浩工場長は、“川崎のアニキ”として加工業界では名の知れた存在である。
多品種少量の時代に生き残りをかける
昔のような大量生産時代は終焉を迎え、時代のニーズは多品種少量だが、製造現場が効率的に対応するためにはフレキシブルな生産現場の構築が必要不可欠である。また、様々なものを効率よくつくるためには、似たような製品を集めて経済効果が得られるよう生産量を確保する術も考えなくてはならない。豊田製作所は様々な顧客の要望に応えるため、柔軟な製造現場を構築していることが特長だ。長久保社長は、「多品種少量で多いのは自動車の製造ラインの治工具関係。特殊な爪など形状が複雑なものが多い。耐久性を強化するためには焼き入れが必要だが、複雑な形状だと焼き入れ時に変形が大きくなる。材料はその時その時のロットでも微妙に違ってくる。これはこちらに来た材料の切っている方向が違っても起きえることで、伸びたり縮んだりする材料の変形を見越して加工をしていくことが重要であり、日々の加工は材料変形との戦いでもある」と話す。高精度加工を実現するために材料変形に対して非常に敏感になるという。
「昔のように仕事があるような時代ではなくなった。“加工のなんでも屋さん”として、お客様が困っているときにお助けできるようにと対応することはわれわれの生きる道でもある。そのためには柔軟な発想が必要で、新しいことを工夫しながらチャレンジしています」(長久保社長)
現在、製造業界は熾烈な価格競争のまっただ中にもさらされているが、「価格で決まる仕事はしない」という長久保社長へ、現代のものづくりに重要なことを尋ねると真っ先に出てきた言葉は「高付加価値」だった。
「付加価値の高いもので勝負すれば、安価な中国とは叩き合いにはならない。自動車関連分野も安価な海外に流れている動きもみられるが、エンジンがらみに関しては日本がまだまだ強い。某自動車メーカーも海外のエンジン設備は日本でつくった設備を現地に送っている。付加価値の高い加工には仕事があるので、なるべく価格だけで叩き合いをする輪には入らないようにしている」(長久保社長)
多品種少量の仕事は工夫を凝らして細かいニーズを拾っていかないと大量生産のような利益は見込めない。
「なにが起こるか分からない世の中で、1社、2社だけにべったり偏って稼げるわけもなく、様々な顧客の要望に応えていかなくてはならない。一番安いところに決まる部品もあれば、先方の指定業者として『ここしかできない』と決まっているところもある。お客様から『豊田製作所でなきゃできないよ』と安心して指定されるように日々精進しています」(長久保社長)
値段の叩き合いの輪に入らないために
リーマンショック時は、多くの経営者の顔色は悪かったが、同社もこの頃、値段の叩き合いに巻き込まれてしまったという。長久保社長は当時を振り返った。「ウチがやっていた部品なども叩き合いになってしまった。当時は景気も悪く、仕事を確保するのにやっとの時代。結局、値段の叩き合いで得た仕事をこなしても社内にはお金が残らないという残念な結果になった。毎回、相見積もりをつくっても仕事は来ず、時間ばかりが無駄になることに気付いたんです」(長久保社長)
たしかに真のコストダウンに貢献し、加工技術があって安価で仕事をこなせるならばそれはそれでいいだろう。問題は“仕事が欲しい”だけでコストを考えず、闇雲に安く仕事を取ると経営自体が疲弊する可能性もあることだ。この件について長久保社長は、「会社が疲弊するだけでなく、結局周囲を巻き込んだ価格の張り合いに引っ張られてどんどん値段が下がり、つられて適正な価格での商売ができなくなることが問題なのです。そうなると会社が疲弊するのも当然で、競争相手がコケてしまった場合、1度下げた価格は戻らない」ことを指摘した。
「こうなると怒りのやりようがない。なので、私は値段の叩き合いの輪には入らないことにしている。そのかわりお客様がどこにも出しようのない難加工に“高精度加工”という付加価値をつけて貢献したい」(長久保社長)以前は東芝で原子力発電の設計をしていたという長久保社長は工学博士の肩書きを持つ。豊田製作所の社長に就任したのは今から10年ほど前。「家内がここの娘だったんですよ」と笑う。同社に入社してからというもの大手企業とはしきたりもなにもかもが違い、戸惑ったこともあったという。意志決定においてスピードの早さがものをいう中小企業だが、「ものをつくることへの信念は変わることはない」としている。
「最近は技能者が少なくなったと感じている」という長久保社長。有名企業がサジを投げた加工がここにやって来る理由のひとつに技能者が減少しているという人材問題もあるようだ。
「ものづくりには技能が必要で大切な技能・技術の伝承といった人材育成は時間もかかる。ちょっとしたことでも精度は変わる。われわれは難しいといわれている加工をこなしてナンボ。精度が良くて当たり前。お客様の要求に隠れているものを先回りして見つけ出し、そこにスパイスを加えるようなやり方で要求を上回るような使い勝手の良さを提供している。ですから、『豊田製作所さんだとどうにかしてくれる』というありがたい評価をいただき、ウチを指定してくれるんですね。設備もひととおりあるからほとんどのことができる。数が出ないとウマミがないという理由から皆がやりたがらない仕事や、生産量が少なく面倒臭いものは大手はやめていくので、そこを拾ってコツコツとこなしていく。今の製造現場は若者か高齢者が多く、高齢になった職人が辞めていくと若い人はどうしていいか分からなくなってしまい、“外注さん、どうにかしてください”と丸投げしてしまうパターンも多く見受けられるうえ、図面がしっかりしていない、なんとなく得体の知れないような、仕様が確定していないという曖昧なものもある。これらは相手の求めていることを探して形にする。つまり、われわれもお客様から言われたとおりの仕事をしていたらダメなんですね。お客様と一緒にやっていく、提案していくという意識がないと。そこにわれわれの付加価値があります。もちろんコスト面でもお客様に提供しやすい価格にするための努力もしています」(長久保社長)男気溢れる“川崎のアニキ”
さて、豊田製作所の難加工を支えているのは高橋 浩工場長である。大柄な風貌だが仕事は至って丁寧であると評判だ。様々な難題にもアノ手コノ手でチャレンジする。加工仲間から相談を受けることも多く、親身になって応えてくれる男気溢れる工場長だ。加工業界では“川崎のアニキ”と呼ばれ、親しまれている。高橋工場長は、「ウチは熱処理から研磨までをこなします。最初から最後まできちんと面倒を見る。途中で放り出したりはしない」という。なんという心強い言葉だろうか。 マシンのピッチ補正も自分でこなすという高橋工場長に加工のこだわりを尋ねると、「高能率に加工するにはどうしたらいいか日頃から考えている。そこで重要なことは切削工具の寿命。チェックマスタで品物よりも工具を測るほうが多いくらいなんですよ。いかに時間を有効活用し、能率良く加工をするかを考えている」というだけあって、なんと、マシンの横には、MSTの焼ばめが22本、ズラリと並んでいた。
「僕の使い方はね、6,8,10,12とシャンクがあったとしたら、必要なものを持っていって粗挽きだろうが仕上げだろうが加工する。工具をいちいちケースから出さない。時間が勿体ないし、終わったら刺しておけばいいだけだからね(笑)」(高橋工場長)
ちなみに高橋工場長のイチオシ工具はオーエスジーの新製品『Aタップ』と一発で仕上がったという日立ツールの『シュリンクマスターボール』とのこと。やはり工具で能率も変わるそうだ。高橋工場長は1人でマシンを3台操る。多品種少量の仕事を効率よくこなすには、少人数で多くの仕事をこなせるための設備が鍵となる。もちろん設備を使う人間側もいかに有効に使うかが問われる。
「設備の使い方はそれぞれ。隅から隅までいろんなやり方を工夫して使うのがモットー」とする高橋工場長は、「どんなに簡単な加工でも、やり方一つで能率は上がる。最新の機械とCAD/CAMを使って誰もが安全で精度よく加工ができるようにしておくこと」も必要だという。現在、同社ではガスタービンなどのエネルギー分野に貢献するため、着々と準備をしており、今後の展開に目が離せない企業のひとつである。