東機工 斉藤保男理事長に聞く 「キーワードはコンサル営業」
東京都機械工具商業協同組合(理事長=斉藤保男斉藤機工社長)は、東京都内に事業所を持つ機械・工具販売業者の団体であり、約320社が加入している。歴史は長く、明治43年(1910年)に東機工の全身である東京機械金物商組合として発足後、戦時中の統制組合を経て現在の組織に至っており、昨年3月には創立100周年を迎えた。
メーカーの製品がいくら技術的に優れていても、売れなければ意味がない。製品の良さが顧客に伝わらないとそれは“無い”に等しい。メーカーの売りたい製品と加工現場のニーズを合致させ、販売するのは機械工具商社の仕事であるが、近年、縮小する国内市場において町工場も厳しい環境に立たされている。今回は“売る”観点から製造現場を支える商社にスポットを当て、斉藤理事長を訪ね機械工具商社の現状をお聞きした。
―近年、国内市場の伸びが期待できない状態になっています。どうお考えですか。
斉藤 どこの業界も同じだとは思いますが企業格差を感じます。縮小する国内市場において既存のお客様を守り抜くのに必死な状態です。今や組合員数もピーク時の半分近くに減少してしまった。後継ぎがいないなど後継者問題も抱えているのが現状です。
―販売方法も多様になり変化してきました。
斉藤 資材など電子商取引が盛んに行われるようになりました。従来の流通に風穴が開いたと感じます。
これでいいのか日本のものづくり
―熾烈な価格競争もありますが。
斉藤 インターネットは販売のツールであり、注文すればすぐに届けてくれるメリットもあります。単に売りっぱなしで良ければネット販売で充分ですが、製造現場は常に高能率・高品質を求めている。こういう時代だからこそ、対面販売の強みである“加工現場に密着している”ことは重要です。加工方法でデーターは変わります。機械工具メーカーも自分のところの商品の“最適な加工方法”を知ってもらいたいのは当然であり、そのお手伝いをするのはわれわれの役目です。加工現場が求めている要望に叶った製品は、実際目で確かめないと分かりません。最適な加工方法を現場で活躍するお客様に選んでもらえるようわれわれは努力しています。そしてここに販売のチャンスはある。工具もどんどん進化していますしね。販売業が生き残るにはコンサル営業が鍵となると考えます。
―残念ながら国際競争力が低下しており安価な他国の製品群に押され気味ですが、新興国も財布が潤えば生産性を高めたいと願うはず。高価でも性能の良い日本製はまだまだ注目されると思うのですが。
斉藤 とにかく安ければ良いという時流はどうかと思います。技術の流出も問題ですが、さらに問題視しなければならない事柄でしょう。というのも、会社の命令で「とにかく安くモノをつくれ」となれば、会社側は安くモノをつくることに注力し、進んでいきます。現在、外需が伸びていますが、押し寄せるグローバル化の波の中、価格問題は避けられない。コスト意識が高いことは結構なことですが、“コストのかからないものづくり”ばかりを追求してしまうと、将来に問題が起こる懸念がある。なぜなら伸びる東アジア等へ向けた展開も安さばかりを追求している風潮がありますが、いずれ新興国も懐が潤えば付加価値の高いものを求めて来る。
そのときこそ本当に日本が困ることになると感じています。安さを追求するあまり、本来強みであったキメの細かいものづくりをなくしてしまった日本には、優れた技術者がいなくなっている可能性があるのです。今のままではコストのかかる人材育成に力は入れられない。したがって、新興国が高い技術力を持った時、日本はそれこそ技術も人も何も残っていないことだって考えられる。日本は優れた技術を生み出す土壌があるのですから、今のうちからしっかりと対応策を考えなければと強く思います。
世界のアキバはここからスタート!
ところで斉藤機工は秋葉原で60年続く老舗である。約1000社のメーカーから顧客のニーズに合わせて商品を提供している。
秋葉原には「秋葉原ラジオストアー」があり、昨年3月に60周年を迎えている。この「秋葉原ラジオストアー」は、昭和25年(1950年)にGHQによる露天撤廃令に基づき、それまで個々に営業していた10店の露店商がひとつの企業となり創立したもので、斉藤機工もこの時代から活躍している。ラジオ全盛期の時代に1店目から10店目まで通り抜ければ、ラジオ1台を完全に組み立てられるストリートとして注目されていたのだ。
まさにアキバの草分け、「世界のアキバ、エレクトロニクスのアキバ」を先導したと言っても過言ではない。