男はこうして騙される! ~卑劣な手口を検証する~ 

とんでもない女に引っかかってしまったというのはよくある話。
近年の毒婦といえば木嶋香苗を思い出す人も多いだろう。あの事件について、ほとんどの反応は、木嶋香苗がなぜ男を騙せたのか――というものだった。

被害者と木嶋香苗は出会い系サイトで知り合っている。最初から恋のはじまりを予感させるワクワクするような時間など、効率を求める木嶋香苗にとっては時間の無駄。わたしでよければ結婚を前提に付き合ってください、というスタンスを前面に押し出している。一刻も早く素敵な女性と巡り逢いたかった被害者にとって木嶋香苗とのやりとりは心ときめくものだったのだろう。

木嶋香苗は良いとこのお嬢様を装った。それもとびきりのお嬢様を。相手が中年だろうが老人だろうが、小銭を持っていそうな男が悦ぶ言葉をチョイスし、散りばめ、甘い言葉を羅列する。

相手は、木嶋香苗と会う前に、どんどん妄想が膨らんでいった。木嶋香苗のブログには、美味しそうな手料理が並んでいる。お嬢様で料理も上手。気遣いもある。なんて素敵な人なんだ―――と。

そんな口が上手かったらどこかの営業でもやればいいのに―――なんてわたしなんぞは感じたけれど、おそらく根っから働くのが嫌いな怠け者だったのだろう。嫌な思いをして働くくらいなら、人を騙して暮らしたほうがいいという実にシンプルな欲望のもと、事件を起こしていくわけだが、このような恐ろしい女の地雷をいつ踏むか分からないのが現実である。

そこのアナタ!
「いくらなんでもあんな女には騙されないよ」と言い切れる自信があるかい? 
そう、確かに私の周囲にいる男性のほとんどは、この話題になると、例外なく、「騙されない」と豪語していた。「美人だったら騙されてみたい」というフトドキモノもいたけれど、ほとんどが「あんな女とつきあうなら一人がいい」と言った。

なのに、なのに、なのに、あぁ、どうしてだ!

――――ということで、今回、聡明な読者の皆様に警鐘を鳴らすべくコラムというより物語を掲載することにした。なお、登場人物の職業などは架空のものとし、一部ノンフィクションを交えて掲載する。なので、この物語はある事件をモチーフにしたフィクションである。

恐怖の出逢い

友人はアラフォーの佐藤良輔(仮名)といった。職業は経営コンサルタントである。どこか野暮ったさがあったが腰が低く、質朴な印象を相手に与えた。少々有名なコンサルタントだったので、佐藤良輔の周りには常に人が寄ってきた。たくさんの人に囲まれつつも、特に周囲と摩擦を起こしたという話は聞いたことがなく、誰からも好かれていた。今から考えれば誰からも好かれていたが、助言をしてくれるような間柄の友人がほとんどいなかったのかもしれない。

われわれは友人数人とたまに会ってはバカ騒ぎをしたりして、日頃のストレスを解消していたのだが、年が明けてしばらく経ったころから佐藤良輔の付き合いが悪くなった。女でもできたか仕事が忙しくなったか―――そのくらいしか考えていなかった。いずれにせよ充実した毎日を送っているのだろうと、特に気に留めることもしなかった。

そんな矢先、佐藤良輔の自宅に泥棒が入った。
しかも不幸なことにそれが複数回起きてしまった。半年も経たずに2度も泥棒に入られるとは。彼は犬を飼っていたので犬に被害がなくて良かったが、結構なお金がなくなった。

はじめはあんなにうろたえていた佐藤良輔が、なぜかピタッとそのことに触れなくなったのは、きっとショックだったからに違いない。とは思ったものの、なんとなく気持ちの悪い出来事である。盗まれていたのは健康保険証やクレジットカードなどお金を借りられるためのアイテムもあったようだ。わたしはこれ以上、この件について触れるのをやめた。なんとなく聞いてはいけない気もしたからだ。

季節が夏に移ろうとしていたある日。
佐藤良輔から彼女が出来たと恥ずかしそうに報告があった。彼女は東海方面から引っ越し済みで、すでに一緒に住んでいるという。

「い、いつの間に! おまえさん、まったく隅に置けないねぇ。気付かぬうちに愛を育んでいたとは。どんな女性なのさ、ほら白状しろ☆」と中学生のように思い切りベタに冷やかした。

付き合うきっかけは趣味を通じてのコミュニティサイトだと聞いた。彼女の名前は西田百合恵(仮名)。アラフォーだ。有名大学である〇〇大学〇〇学科を卒業しており、ソフトウェア関連会社の社長をしているという優秀な人材である。これらの華麗なる経歴を聞いて、ますますわたしの冷やかしもヒートアップしたけれど、佐藤良輔は嬉しそうに頷いたり首を横に振ったりして照れながら、ビールを飲んでいただけだった。

なんとなく、こちらもほのぼのとした気分になった。もうバカ騒ぎのお誘いはできなくなって寂しいけれど、苦労した分、幸せになりなよ、と思った。
そう、わたしは本気でそう思っていたのだ。そのときは――――。

嬉しい報告の2週間ほどくらい経った頃だろうか、ちょうど友人を含めた数人で呑み会を開いた。佐藤良輔の彼女も参加するという。その呑み会で、わたしは初めて佐藤良輔の彼女、西田百合恵に会った。

はじめて会った西田百合恵は、愛想がまったくなかった。驚いたのはその風貌だ。メガトン級の巨漢に手入れのない脱色したボサボサの髪の毛。かといって芸術家にありがちな雰囲気から滲み出るクリエイティブ臭もまったくなく、どうみてもソフトウェア関連企業の社長をしているとは思えなかった。

「オマエは外見で人を判断するのか」、お叱りを受けそうだけれど、ショッキングピンクの髪だろうが服装がメチャクチャ派手だろうが、たとえ名刺を忘れた、あるいはない、としても初対面の相手に対し、にこやかに挨拶をするのは人間関係を円滑にするための基本だろうと思ったが、顔を合わそうとせず、口元はへの字に結んだまま。サングラスの中の瞳がどこを向いているのかも分からない。

以前、佐藤良輔が「彼女は目の色素が薄いので、サングラスを外せない」と言ったことがあったのを思い出した。ところが西田百合恵は特別色白でもなく、ふと外したサングラスに隠れたつぶらな瞳も、困るほど色素が薄いわけではなかった。一瞬、(色素が薄い外国人はどうするんだよ)と悪態をつきたくなったけれど、やめた。

強烈な違和感を覚えつつも、宴会は進んだ。
西田百合恵もフィギュアが好きなオタク趣味だと聞いていたので、いろいろ話しかけたところ、突然、「ごめんなさい、目を見られるのが嫌なんです」と不快感を示し、顔を背けた。

わたしの本能アラームが“触るなキケン”とけたたましく鳴り響いた瞬間である。よく分からないが、直感的に違法な者にありがちな臭気を感じ取ったのだ。

西田百合恵は、会が盛り上がった頃、妙なことを言い出した。
「わたし、〇×銀行の口座をつくろうと思ったら断られたんですよ。隣町だからってことで断られたんです。最近、厳しくなってるんですね。詐欺などの事件も多いから」

突然降って湧いた女社長の“口座作れない告白”に、(いくら隣街だからといって、んなことあるわけないだろう。買い物に来るとか、理由を説明しなかったのか)と思ったが、それよりなにより、経営者が初対面の人間に口座をつくれない、と打ち明けるなんてノーマルなことではない。適当に「へぇ」、とか、「そうなの」と頷き、マトモに返答するのをやめた。

佐藤良輔は、「彼女はさ、20人の社員がいる会社の社長なんだ」と嬉しそうに紹介したけれど、どうも違和感がつきまとう。職業柄、多くの経営者とお会いしているからこそ、ピンとくるこの違和感。どうもおかしい。

まぁそれでも、佐藤良輔が選んだ彼女だ。西田百合恵も佐藤良輔が大好きだといった。ものすごく違和感があったけれど、わたしたちの立ち入る問題ではないので、これ以上のことは突っ込むのはよそう。われわれはすでに大人なのだ。なにかあっても自ら解決する力は持っている。わたしは、この違和感を払拭すべくいつものようにバカ騒ぎに徹した。

―――が、どうも解せない。
西田百合恵は、本当に有名大学を卒業したソフトウェア会社の社長なのか―――。

予感的中

予感は的中した。
その宴の2週間もたたぬうち、西田百合恵はパクられた。早朝に突然、ガサ入れが入りそのまましょっ引かれたのだ。容疑はネット詐欺である。佐藤良輔も共犯の可能性がるとみなされ取り調べを受けたが、シロだと判明し、返された。西田百合恵は3週間以上経っても戻らなかった。

このとき佐藤良輔は精神的ダメージを負うことになった。おそらく相当うろたえたのだろうと思う。それよりなにより、3週間以上経っても戻らない西田百合恵について、起訴されたに違いないとピンときたが、よく分からないので法律に詳しい友人に尋ねてみたところ、「勾留期間は決まっている。そんなに長いのは、ひょっとして過去にションベン刑のひとつやふたつ食らってるんじゃないか」と銀縁の眼鏡を光らせ、ニヤリと口元を歪めた。

ひぃいいいいっ! 一瞬にしてムンクの叫びそっくりのポーズをとったわたし。

だが、それ以上にショッキングだったのは、佐藤良輔が、この前の泥棒事件も、「犯人は百合恵だった」と白状したことだ。

「あんたなにやってんのさ!」
わたしは驚いて大きな声を出した。まさかそんな女に引っかかるとは。

「で、どうするの? このまま付き合っていくの?」
「いや・・・もう信用できない」
その声に力はなく、今にも消えそうだったけれど、思い切って疑問を投げかけた。

「あのさ・・・言いにくいんだけど、彼女本当にソフトウェア会社の社長なの? 仕事場とか、あるいは仕事をしているところを見たことがあるの?」

「いいや・・・仕事場は見たことがないけど、仕事しているのを見たことがある。ボクの家でパソコン画面を見ながら指示をしていたから、社長だよ」
となんだかよく分からない歯切れの悪い説明をする佐藤良輔。

居酒屋のテーブルについたビールの水滴をなぞりながら、「・・・・でも・・・・彼女は可哀想な人なんだ・・・」と寂しそうにつぶやいたと思ったら、突然、「あれは・・・・彼女は病気なんだ! 幼い頃、両親に酷い虐待をされて、多重人格障害者になったんだ」と天を仰いだ。

「た、多重人格! 昔、テレビで見たことがあるアレか! なにそれカワイソ――――!」 
うっかり何も考えず、そんな言葉を吐きそうになったが、すぐさま言葉を飲み込んだ。冷静になれ、冷静になれ・・・わたしは深呼吸しながらもう一度聞いた。

「あのさ、こう言っちゃあなんだけど、フツーに考えてさ、中小企業の社長がさ、盗みを働くほどの病気だったら業務を遂行するのは難しいよ。本当に会社の社長なの?」
「・・・・うん。あ、でも今は会長になった。仕事は優秀なスタッフに全部任せているって言ってたから」
「本当にそうなの?」
「本当だと思う」
「もう一つ聞くけどさ、経営してるとさ、所在地からはいきなり遠くに引っ越すことは困難だと思う。悪いけど、ハタから見たらあんたのところに転がり込んできたとしか思えないよ」

「う――――ん。彼女は本当に行くところがないからなあ。う―――ん」
佐藤良輔は考えたまま動かなくなった。

実は、「なんとなくおかしいよね」という違和感を抱いている人間はわたし一人ではなかった。幸いなことに、同じ事を感じていた人間が他にもいたのだ。この動物的カンというものは、様々な修羅場をくぐり抜けて生き抜いてきた末に身についたスキルであり、ちょっとやそっとじゃ鈍らない。そうして分かった衝撃の事実―――ブログに記載されていた西田百合恵の経歴である〇〇大学に〇〇学科は存在せず、堂々と経歴を詐称していたことを把握した。おそらくソフトウェア会社の社長も嘘だろう。ネットで彼女の名前を検索しても、ヒットするものはなく、会社を経営している痕跡も見当たらなかった。

この事実を皮切りに次々と恐ろしい手口が明るみになっていく。

狙った相手をロックオン! 嘘で固めたブログ

“なんとなくおかしい”―――から、“絶対におかしい”にグレードアップした西田百合恵に対する疑惑。一体コイツは何者なのだろう。

わたしは眠い目をこすりながら、西田百合恵のブログじっくりと読んだ。開設したのは今から2年ほど前。そこには佐藤良輔の心を掴みそうな内容のものが書かれてあった。マニアックな人形の写真もたくさんあった。

高級スポーツカーを乗り回すセレブっぷりを炸裂させながら、多忙な社長業務をこなす日々。
「今日も徹夜~」、とか、「スタッフともども頑張ります!」の文言が並ぶ。「時間が無いからコンビニ弁当」と弁当の写真が貼られていた。他には、恵まれない人々への募金を呼びかけ、「みなさん、あともう少しです! あともう少しで目標額です! わたしも会社の代表者として、今から銀行に振り込みに行ってきま~す♪」とあった。なかなか風貌に似合わず慈愛に満ちあふれた行いではないか。

フムフム・・・と、読んでいくと、一枚の写真に目が留まった。円卓を囲んで大人の男性達が会議をしている風景。L字型名札が机テーブルにあることから、どこかの審議会のようにもみえた。写真から重たい空気が伝わってくる。

「みなさーん♪ 百合ちゃん社長は早朝から経営者の会合に出ております(>_

けっ、なーにが百合ちゃん社長だよ。アラフォー女がよく言うよ――とスルメイカをかじりながら画面に向かって悪態をつくわたし。写真の重厚感に比べ、フワフワに軽い百合ちゃん社長のお言葉――――うーん、おかしい。いや、おかしいのは分かっている・・・もっとなにか・・・そう、もっと激しい違和感がこの写真から漂っている・・・・。じっと写真を見つめてみる。なにかがおかしい―――――。

―――――ああっ! なんだこの写真、デタラメじゃねぇか! 
わたしはバシッと机を叩いた。写真のアングルは記者がニュースを撮るときのアングルだったのだ。違和感に気付かない方からは「百合ちゃん社長ファイト!」のコメント。
「はぁーい(^^)/ 年上の人ばかりだから緊張しまくりですぅ~」と可愛く返信してあるのには、思わず吹いた。おまえ、いつ記者になったんだよ、と1人で画面にツッコミを入れるわたし。

写真には時計が写っていた。拡大してみると、時計の針は昼を指している。おいおい、これのどこが早朝なんだよ・・・。コメカミがピリピリしてきた。あぁ、やばい、やばい。コイツぁ激しくヤバイ。どうしよう、どうしよう、どうしよう―――――。

ここまでやる女だ。なにをするか分からない――わたしは翌日、得体の知れぬ恐怖を感じて、意を決して信用できる友人数人に打ち明けた。なんていったって見過ごすことの出来ない事実が目の前に起きたわけである。被害が大きくなる前になんとか手を打たねばなるまい。手口を検証し、警鐘を鳴らすのは書き屋としての役目でもあろう。

それからというもの百合ちゃん社長の嘘は、他にもどんどん明るみになっていく。

数日経ったある日、友人のひとりが、「思っていたより遙かにヤバイ女だ」とやって来た。なんと、百合恵が更新していたブログの書き込みのほとんどがデタラメだという。

友人は、「仕事中に我慢出来なくなって食べたラーメン」、「スタッフと食べた高級料理」、「夜中のドライブ」、ほとんどの写真が他人様のブログの盗用だということを次々と指摘した。画像を検証していくと、忙しくてコンビニ弁当しか食べられないというコンビニ弁当すらも盗用であることが明るみになった。恐ろしいことは、どれひとつとっても、自分の携帯から、あるいはスマホから撮ったようなものは見当たらなかったことだ。

2013年8月のブログには、「びっしりスケジュールが埋まってまーす! 部長のヤツめ・・・w」の文言とともに、スケジュール帳の写真がアップされていたが、その写真は2009年8月のものだった。当然、これも他人様のブログからのパクリである。ずさんなヤツめ・・・w。

美味しそうなエビフライ写真もあった。
「本日の夕食はエビフライ! 百合ちゃん社長の自家製タルタルソースでぇーす!」
もちろんこの写真もまた、他人のブログからの盗用であるのはいうまでもない・・・・あらやだ、インチキ写真に引っかかった佐藤良輔のコメント発見。
「これ、作ったのですか? 美味しそうですね」と絶賛しているではないか。
「はぁーい、そうです。百合ちゃん社長がつくりましたよ~♪ ただの手料理ですよ。百合ちゃん社長がつくったタルタルは絶品なんですよ~(^^)♡」

――――――― 思わず頭を抱え込んだわたし。佐藤良輔、しっかりしろ! このエビフライは2007年ものだぞ! しかも作ったのはまったくの別人だ!

腹立たしいのは本当に困っている人の活動に乗っかり、“慈善事業”をうたっては一見、優しそうな女を演じて周囲を安心させる手口である。世間様に嘘をつき続けて他人を騙して生きている人間が、まともな仕事に就けるわけがないので、おそらく今まで詐欺を働いた利益でショボショボと生きてきたのだろう。不気味なヤツだということは、これで十分理解することができた。

これらを見る限り、①ブログを立ち上げ、②マニア系の記事アップし、③相互フォロー系からと政治家や自称人気経営者など誰でも友だちにしてくれる人を探して整え、④会社があるかのような画像と記事をパクッてアップ――という手順を踏んで、時間をかけて狙った相手をロックオンしていたことがわかる。

恐怖のマインドコントロール! 合理性を徹底拒否!

問答無用で反社会的人物であるということは痛いほど分かったが、さて、じゃあどうするか―――というほうが問題である。なんていったって人の良い佐藤良輔が破滅する危険性を孕んでいるので、言いにくいことだが、西田百合恵が極めて質の悪い人物であるということを指摘した。周囲に迷惑を及ぼす可能性を秘めていることも説明した。それでも好きなら仕方ない。彼女が多重人格障害と主張するなら治療に専念し、病気が治るまでパソコンは触らせない、外部とも接触をさせないようにする必要があると告げた。

この時はまだ、佐藤良輔に彼女の存在自体が嘘で固まっていたことを報告していない。これは最後の切り札として、取っておこうと思ったからだ。さらなる厳しい現実を突きつける前に、今の段階で気付いてくれよ、なぁ、佐藤良輔。祈るような気持ちだった。

佐藤良輔は苦いものでも食べたような顔をしていた。彼の目にはわたしがものすごく感じの悪い女に映ったに違いない。

パクられてから2ヶ月ほど経ったある日。
佐藤良輔から西田百合恵が保釈されたとのメールがあった。それを読んで、愕然とした。

メールには保釈が認められ、自宅に連れて帰ってきたとある。これにも驚いたが、最も驚愕したことは、今回の事件は別人格「アケミ」の仕業だと主張したことだ。

メールには、百合恵は子供の両親からかなりひどい虐待を受けており、そのことから身を守るために、最初に別人格が生まれた。虐待されている記憶がなく、別人格があるお陰で心のバランスをとることができたが、その後もいくつかの別人格が生まれた――とあった。アケミはその中のひとつであり、いままで百合恵にはなかった反抗期の反動として生まれた人格のアケミが今回の犯行を犯した―――佐藤良輔は、「このあたりの事情は検証済み」としていたが、誰が検証したのかは全く書かれてはいない。

「それでも百合恵は刑事的責任をとらねばならず、悪い事をしたと自覚している。問題だったアケミの人格はもうすでに消滅しており、本人も猛省している。今は、すっかり普通の常識人に戻っているし、もう二度とこのようなことを起こすことはないと断言できる状態だから、何も聞いていなかったことにして仲良くしてやってくれ」――そんな趣旨が書いてあった。

あいた口が塞がらないどころか、アゴが床に落下するほど呆れ果てた。虐待されていた記憶がないと言っておきながら、どうして虐待されたと分かるのか。こっちは百合恵が他人の画像を悪用し、虚構にまみれたブログで人様を騙していたことを知っているんだぞ。なーにが、「常識人に戻っているので、通常通り仲良くしてくれ」、だ。冗談じゃない、あたしゃヤダね。こんな女と友達なんかなれるわけがないだろう・・・と思いつつ、怖いもの見たさもあって、久しぶりに更新した西田百合恵のブログを覗いてみたところ、そこには、シャバに出た喜びが記されてあった。

「♪ヒャッホ~―――\(・∀・)ノ―――久しぶりぃ♪」

思わず膝から崩れ落ちそうになった。
おいおい、これのどこが反省しているんだ。しかも、佐藤良輔ったら、ネットで詐欺を働いた女になんでまたパソコンをいじらせてるんだよ! 無責任すぎるじゃないか! と激しい怒りが込み上がったが、なにか問題が起きたら精神疾患のせいにする――という手口を垣間見たわたしは、一気に背筋が凍った。

最後の忠告

ああ、どうしよう、なんて佐藤良輔に返信すればいいんだ。絶対に、こんなヤツらとは友達になれない。絶対に、だ。怖い怖い怖い!!!

悩みに悩んだ末、
「ごめんなさい、こういうことについては理解ができません。
理解をするまで時間がかかります。いま、ちょうど仕事が多忙なので、申し訳ないのですが、頭の中を混乱させたくないのです。しばらく理解をするまでそっとしといてください」
と返事をし、恐ろしくなったわたしはソッコーで医師と臨床心理士に相談した。

「一般論としてさ、本当の多重人格はそう簡単に治らないよ。もっとヤバイのは演技性人格障害といってね、犯罪者が多重人格障害を演じるケースがあること。案外、このケースは多くてね、演技性は犯罪性が高いので関わると面倒だよ。なんとかしたい気持ちも分かるけれど、今すぐ逃げたほうがいいね」と身を案じる丁寧なアドバイスをいただいた。ますます恐怖で頭を抱えるわたし。うーん、困った。

しばらく経った後、周囲にアドバイスをいただきながら、慎重に言葉を選んで、佐藤良輔にメールを送った。恐怖を感じている、ということを伝えなければならなかった。

「先日のお申し出について、時間をかけていろいろ考えましたが、どうしても理解することができず、それどころか日を追うごとに恐怖さえ感じるようになりました。申し訳ございませんが、貴意に沿うことができませんので、ご配慮のほどをお願いいたします」

するとその日のうちに、「理解しがたいことは分かっている。今回、勾留中に百合恵と長い時間をかけて、たくさんの手紙のやりとりの末に理解するに至った。メールだけで理解しろというのは無理な話だと思っているけれど、医学的にも多重人格障害というのが事実として存在する、ということだけでも認識してほしい」という残念な返信があった。

多重人格障害という病があるということは知っている。でもね、佐藤良輔、良く聞けよ。病と言い張るあんたの彼女が、別人格が消滅し、猛省したと主張するのであれば、まずは嘘で嘘を重ねたブログを閉鎖し、しばらくは外部と接触するのを止めるだろう―――。

わたしは友人として最後の忠告をした。

「医師や臨床心理士によると、多重人格障害はそう簡単に治るものではない。犯罪者が多重人格障害を名乗る演技性もあるのだ」と述べた。

ところが、真面目なわたしの忠告はひとっつも届かなかった。
それどころか、若干キレ気味に、「もちろんそういうことは理解しているし、別人格を消すことは難しいという話も知っている。こちらもいろいろ調べたわけで、今回の場合は、いくつかある人格を統括する人格がいて、それを一度隔離して出られないようにしていた。そこからその人格を消滅させた過程に関しては、たぶん医学では証明できないでしょうし、専門医でも否定するであろうことも知っている」と速攻で返信してきた。

佐藤良輔の説明を読んでいくうちに身体がブルンと震えた。病気だと主張しているにも関わらず、きちんと診察していないのはなぜだ? と疑問が湧いたが理解できた。そう、医療を拒む理由が他にもあったのだ。

「ここからはオカルトの領域になるので、説明しても理解されないだろう。今回の件に携わってくれた方は、百合恵と15年以上の付き合いのある先生(霊能者)だ。信用に値する方だと思っている。その先生の力によって、問題のある人格を消してもらうことができた。このことは理解してくれとは言わないが、自分はそのことを信用している。あなたに理解してもらうのも到底ムリだと感じているし、この考えを押し付けようとは思わない。今後は距離をとってもらっても構わない。それは仕方ないことだと思っている」

わたしは目を閉じた。ものすごく切なくなった。もう、完全にイっちゃってる―――。
佐藤良輔は、西田百合恵の多重人格障害をはっきり“検証”していると主張したが、医師の診察の結果、結論に至ったことではないことがこれでハッキリした。おそらく西田百合恵も嘘がバレるのを恐れて診察を拒否しているのだろう。

佐藤良輔よ、目を覚ませ! そんなデタラメあるかいな! 
―――とは思ったものの、これ以上、合理性に欠いた佐藤良輔に、なにを言っても無駄だろう。残念だけど仕方ない。大切な友を失うのは悲しいが、わたしは諦めた。

佐藤良輔は、西田百合恵のアケミを名乗る悪人格が消滅し、マトモになったと主張しているが、百合恵は反省しているどころか、保釈中にもかかわらず、嘘を重ねて作り上げた自分のサイトを継続しており、この期に及んで平気で書き込みをして世間との接触を図っている。

最近、西田百合恵のお友達だという檜山恋香(美人女性医師)の存在を知った。ギャルモデルのような可愛らしいお顔をして微笑んでいる写真付きのSNS。

だが! 
女性医師は、どうも西田百合恵本人のようだ。その理由は、使用されていた画像のほとんどが西田百合恵の使用していたものと完全一致し、西田百合恵とサイトのつくりが全く一緒なのだ。ただ、違うのは医師という職業と顔写真である。こちらのサイトもしょっ引かれる直前まで、佐藤良輔の家の中でのうのうと新たな獲物を物色すべく、更新をしていたのだから恐ろしい。

西田百合恵と檜山恋香は、ふたりとも、有名大学卒業のハイレベルな女。
オタク趣味。
1人でコンビニに行くのが好き。
盗用写真のずさんな使い回しの一致―――これのどこが多重人格なんだよ。どう考えたって、人格は1つしかないじゃないか。どこを切っても金太郎飴のように同じ顔しか出てこない。悪がバレたらまた別人格の仕業にするつもりか。そんな戯れ言は通用しない。世間をナメるなよ。

ここからみても西田百合恵は、多重人格者でもなんでもない。人格はただひとつ――――。
犯罪行為に罪の意識をまったく感じないデタラメでズサンなやつ。
これが西田百合恵の本性だ。

その後、恐怖に感じているから配慮してくれ、とお願いしているにもかかわらず、佐藤良輔から何度かメッセージをいただいた。“なんとか分かって欲しい”という気持ちは伝わってきたが、心を鬼にして取りあわなかった。悲しい気持ちになった。

佐藤良輔は「立場によっていろいろな考え方もあるのに、あなたにその考え方はないと分かった。理解してくれないのは残念だ」と苛立たしさを見せたけれど、そんなことぐらいこちらも知っている。崩壊した論理を突きつけられたこっちの身にもなってみろ。常識がないから怖いと言って防御しているのも分からないのか。それ以上に、わたしは極めて質の悪い犯罪行為を正当化するなど受け入れることはできない。断固として拒否する。

おやおや、また誰かが檜山恋香に引っかかってコメントしているようですよ。あぁ、闇雲に友達を増やしたいアナタですね。あなたのな~んにも考えない「いいね」、が、またあなたの周囲に伝染します。

類友の法則―――寂しい大人は騙される

今回、この事件をキッカケにいろいろ考えさせられた。木嶋香苗にしろ、西田百合恵にしろ、こういう女になぜ、男は騙されるのか―――。男女の出会いは様々だが、ネットがきっかけになった場合、相手とのやりとりは、たいてい妄想から始まる。もちろん、うまくいくカップルもいるだろうが、佐藤良輔は西田百合恵の虚構にまみれたブログを読んで「スポーツカーをさっそうと乗り回すソフトウェア会社の女社長」をイメージした。まったくのデタラメとも知らずに。

期待に胸を膨らませながら出かけたというのに、言っちゃあ悪いが、想像と真逆の女が現れた―――となると、いくらモテない男でも通常は「うっ! ヤバイのが来た」と転がるように逃げ出すと思うのだが、逃げなかったのは、百合恵の虚構にまみれた経歴がよほど魅力的に映ったからだろうと推測している。心の隅っこで、セレブ臭漂う女に“なんとかしてもらいたい”と切望していたのだろうか。だとすれば、お互い利害が一致しているわけで、これもまた類友の法則にのっとった出会いだったのかもしれない。結局、欲に目がくらんで冷静な判断が出来なくなってしまったことが招いた悲劇でもあろう。

生きていると地雷を踏むことなんざ、多々ある。地雷を踏んだ分、人は成長する可能性があるとも感じている。ただし、同じ過ちを繰り返すのは、単なるバカモノ扱いになってしまうわけで、そうならないためにも、言いにくいことをきちんとアドバイスをしてくれる人が周囲にどのくらいいるかが重要になる。わたしは人生を切り拓くための重要な鍵となるのは人との出会いだと思っている。たしかに希薄な人間関係は煩わしいこともなく、都合のよいことばかりで心地よいかもしれないけれど、現実社会では砂の城のような人脈を構築しても意味はない。本当に困っているときこそ、本領を発揮するのが人脈だ。

最近になって中年男性が、SNSを利用し、むやみやたらに交友関係を拡大させようと企てているのを目の当たりにするようになった。出会い系サイトに誘導するような人物や犯罪行為をなんとも思わない問題人物であっても繋がろうとする。こうした大人達の多くが、経歴や容姿などその人物を形成している“上面”しか見ていないことがよく分かる。だから騙されるのだ。

うっかりおかしな人物と繋がってしまった、としても気付いた段階で軌道修正すればいいのだが、問題は、本人がいつまで経っても気付かない場合だ。危険人物と繋がっているという自覚もないので問題を抱えたまま、他人に接触しようとする。成熟した大人にしては極めて無責任な行為だ。おそらく己の利益のためには他者を軽視する精神が根付いているのだろう。現実社会では、このような人物は、まったく信用に値しないとされ、疎外される。寂しくなるのも当然だ。

SNSの活用は、共通の話題を持つ人々が出逢い、新しい交友関係が構築できる可能性を秘めている素晴らしいツールでもある。ただし、使い方を間違えると知らずのうちに周囲に迷惑をかける場合があるということを知って欲しい。

インターネットを介した詐欺事件は年々増加傾向にあり今や大きな社会問題でもある。おそらく今回のケースは氷山の一角だろう。読者の皆様の危機管理に少しでも役立てていただければ幸いであるとともに、これ以上被害が拡大しないことを切に願っている。

これを機に、無責任に“友達を増やすためだけを目的”としたFBの友達申請は一切、受け付けません。出会い系サイトに引っかかる方も削除対象です。

わたしは限定される業界の中で動いているという、極めてマイナーな書き屋だが、常に心の中では頭にチョンマゲを結い、刀をさして仕事をしている自負がある。
というわけで、感じ悪くてごめんなさいね。
アディオス!

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