【トップインタビュー】様々な産業を根底で支える北川鉄工所 北川祐治社長に聞く ~世界に通用する品質を目指して~ 

広島県府中市に本社を置く北川鉄工所(社長=北川祐治氏)は、生型鋳造・ロストワックス精密鋳造・エバフォーム鋳造・MIM焼結品及び鋳物素材をベースとした自動車部品や各種機械部品向けの機械加工品および組立完成品などを手がける「金属素形材事業」、コンクリートプラントやビル建設用タワークレーン、環境機器、自走式立体駐車場などの「産業機械事業」、旋盤用チャックやNC円テーブルなどの「工機事業」の3つの事業から成り立つ。中でも、旋盤用チャック装置やNC円テーブルなどの工作機械器具分野では世界的ブランドとしての地位を確立し、標準チャックは国内シェア60%を誇る。

同社ではタイ、中国、に続いて、昨年は北米・中南米の自動車市場の拡大に対してメキシコに海外生産拠点を設置した。メキシコは鋳造加工の一貫納入を開始し、生産品目は自動車関連部品、生産量は月産500トンとしている。この鋳造工場は福山工場同様に環境に配慮した自動化ラインであり、加工工場は自社の工作周辺機器を用いて複数の工程を1台のマシンに集約させ、難易度が高くかつ高精度な切削加工が実現し、効率よく生産することを可能にしている。

海外事業を軌道に乗せるとともに、さらなる品質の向上と人材育成に注力している北川社長にお話を伺った。

グローバル化と技術革新

 

JIMTOF2014では多くの来場者が足を運んだ
JIMTOF2014では多くの来場者が足を運んだ
日本の至る所でKITAGAWA製品が使われていると言っても過言ではないほど、様々な産業を根底で支え、貢献している北川鉄工所だが、その歴史は古く、1918(大正7)年に前身である北川船具製作所を創立したことから始まる。

創業者は北川社長の祖父である故・北川実夫氏。
近くに瀬戸内海があったこともあり、木造船用補機製造販売を目的として創業したのが始まりだった。

3代目にあたる北川社長は事業継承について、「祖父は船に使用する機械から、どんどん世の中で必要なものを広げていった。それこそ住宅もあったし、デベロッパーのようなことも手がけた。学校を建てたり、病院もつくった。地域に貢献するには、政治も良くしなければならない、ということから市長にもなった。とにかく創業者は、良くするためには自分でなんとかしよう、という性分で、様々なことに挑戦してきたんですね。二代目は先代がやってきたことを事業になるように収益性を高めて整備してきた。今はもう昔と違い、日本だけの経済では通用しない。われわれのポジションをグローバルにつくり直すのが三代目である私の役割だと思っている。」と話す。

他国と経済的な取引を進めつつ、グローバル化がもたらす利益を享受するためには、企業が技術革新を促すことが鍵となる。そのためには、それらにふさわしい人材を育成することが必要になろう。

この点について北川社長は、「実業の世界は厳しい。会社は学校じゃないので、仕事を通して人材を育てていくしかない。技術革新には、今まで培ってきた技術を極めていくことの重要性を感じている。グローバル化というと、今までにない、革新的な、というイメージもあるけれど、全く新しいものだけで世界を相手に経済を活性化するのは難しい。新しい×新しいもの、という掛け算的な考えでグローバル化することは困難なので、基盤がしっかりしているものに、新しいものを足していく――そういった考え方のもとで、培われた技術をさらに極め、画期的なアイデアを加えていくことが、技術革新に繋がるのではないかと考えている。」とした。

「メーカーの役目は世の中の役に立つ製品をつくること。KITAGAWAが持っている“ものをつくる感性”が日本だけしか通用しないわけじゃない。世界中にはわれわれとは違った環境があるので、そこはアレンジが必要になるけれど、どこに行っても求められるのは高いクオリティ。だから“海外はわれわれの鏡だ”と言っている。ものづくりに妥協はしません。海外事業を軌道に乗せることは大変だけれど、社員も一生懸命頑張っています。」(北川社長)

北川鉄工所のスローガンは、“世界に通用する品質をつくること”。国内は開発に力を入れて、生産現場は、海外に展開していくという。その言葉のとおり、タイの生産拠点では、不良率の低減に取り組んだ。メキシコでは日本からの鋳物素材供給を受け、自動車関連部品の加工生産を軌道に乗せた。また、中国・瀋陽では、新規顧客からの引き合いも増加し、チャックの特殊品対応にも積極的に取り組んでいる。


チャックから国内最大級のタワークレーンまで!

先日東京ビッグサイトで開催された「JIMTOF2014」。同社のブース内では、量産ワーク加工ラインで活躍する「DG(デザイン)チャック及びNC円テーブル」のほか、加工工程の多彩化を睨んだ他品種少量生産に特化したチャック交換システムなどがドーンと展示されていた。

以前は多くの生産現場が、一定の生産量以上を確保しつつ専用ラインで大量生産を行い、コストを下げることを実現していたが、近年、特殊なニーズに合ったものも、どんどん必要とされる時代になった。生産量が少ないものは商品をつくるにも多くの作業工程を必要とするため、商品単価が高価になってしまう。こういった問題点を排除するためには、生産設備に柔軟性を持たせる必要がある。製品設計の段階から、需要に応じてラインをガラリと変えるのではなく、ひとつの生産現場に多品種を製造できるような仕組みを考えなければならない。

そこで重要な役目をするのが、把握方法の異なる他品種のワークを1台の機械で加工可能にするチャック交換式システムであろう。

同社が2015年4月に発売予定のチャック交換式システムは、位相を合わせ油圧クランプだけでチャックの取り付けが完了する。ショートテーパによる芯出しで段取替え時間を短縮し、チャック交換作業が簡略化される。チャック本体を交換することで、平行チャック→引込チャック・ダイアフラムチャック→コレット等の多彩な把握方法に対応することが可能になる。また、3つのジョーを面盤ごと交換できるAJCシステムは、3つのジョーを面盤ごとロボット等で一括交換することで自動化ラインでの段取替えが可能なので、自動化システムに取り組むことにより夜間などの自動無人運転に効果を発揮する。

「最近はお客様も特殊なものの開発に力を入れておられるので、私たちもニッチなニーズに対応するような商品を揃えていこうと注力している」(北川社長)

納入台数1600台を超える大ヒット商品「ビルマン」
納入台数1600台を超える大ヒット商品「ビルマン」
同社が有名なのは工作周辺器具分野だけではない。今年7月には、国内最大級の建設用タワークレーン「JCL1000NK」を開発し、製造販売している。同社では、1986年に高自立、広作業半径を特長とした建設用タワークレーン「ビルマン」を発売して以来、納入台数1600台を超える大ヒット商品を生み出しているのだ。

高層ビルや大型建造物の建設で、重たい資材を吊り上げ、移動させたりするタワークレーンだが、北川社長いわく、「日本は地震と台風があってものすごく基準が厳しい」とのこと。現在、東日本大震災をきっかけに、首都圏を中心に高層ビルの耐震性を見直す動きが広がっており、建て替え案件が増加している。

「このタワークレーンも2020年に開催される東京オリンピック関係での建設需要の増大が見込まれる中で、高層建築で鉄骨を安全に吊り上げ、素早く所定の位置に揚重することで建設工期の短縮に貢献しているんですよ」(北川社長)

KITAGAWAの土台に品質がある。覚悟を持って取り組め!

 
北川社長に感銘を受けた言葉を聞いた。それは、「ニーバーの祈り」だという。

神よ 。変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、 変えることのできるものと、変えることのできないものとを、 識別する知恵を与えたまえ。
〈ラインホールド・ニーバー(訳:大木英夫)より〉

北川社長は最後に、「この言葉は非常に深い。変えられないものについての、“これだからできないんだよ”という、出来ない言いわけをしていないか、“何が変えられて何が変えられないなのか”を峻別できる力をどうつけようか――ものすごく悩ましいところ。“変える勇気”を持っているか、ということも含めて自問自答している。景気の善し悪しはわれわれが作ってきたわけではく、この時代の流れもわれわれには変えることができないが、KITAGAWAの土台には“品質”がある。これはまさに自分たちが変えられるものであり、私は品質に対して、“勇気をもって取り組め”というよりも“覚悟を持って取り組め”と思っている」としめくくった。

永い歴史の中でも分かるとおり、常に社会的な使命を追究してきた北川鉄工所。この伝統と技術の継承にあるのは、“品質に妥協しない企業体質”だった。
また、同社では、地域の高齢者や子ども達が参加するイベントの手伝いもしており、さらに、地域の文化芸術活動への支援・貢献にも積極的に取り組んでいる。

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