ジーベックテクノロジー 住吉社長に聞く ~個人の能力を最大限発揮できる職場へ~

工業用研磨・切断・微細バリ取り用工具の開発、製造、販売を行っているジーベックテクノロジー(社長=住吉慶彦氏、本社:東京都千代田区)が、平成26年度ダイバーシティ経営企業100選に選出され、今年3月に経済産業大臣より表彰された。この取り組みは、日本企業が競争力を高めるためには、多様な人材を活かし、一人ひとりに最大限の能力を発揮する機会を提供することで、価値創造につなげていくという「ダイバーシティ経営の推進」が有効な戦略になるとの趣旨のもと、経済産業省が主催となって企業を表彰するものである。

多様な経験とノウハウを持つ人材の採用・能力の活用を通して創発的な新製品開発と社内外プロセスの改革を推進し、事業拡大を達成してきたことが高く評価されたジーベックテクノロジー。年齢性別を問わず、企業理念と価値観を共有できる人材を採用し、その能力を最大限引き出すための環境づくりや柔軟な制度を積極的に構築している住吉社長にお話しを伺った。

貴重な経験が活かされる

ジーベックテクノロジーは、1996年、住吉社長の父である毅彦氏が創業した会社である。住吉社長が同社に入社したのは2005年。父の逝去を受け、それまで勤めていた三井物産を退職し、入社した。

住吉社長は、「父は50過ぎてからこの会社を興していて、当時の気持ちを言えば、“なんだか地味な砥石の会社をやっているな”という感じでした。当時は父に対する対抗心がものすごくあって、就職先も相談もせず自分で決めたくらい。“親父はそっちで頑張るかもしれないけれど、俺はこっちで名を上げる!”という気持ちがあった。お互いに違うところで活躍して、いつかは父に認められたいという思いでした。ところが、2001年、元気だった父の病気が発覚し、2003年に他界してしまった。葬式の時、こんなに身体を壊すぐらい真剣にやっていた事業なのに、死んでしまったら手が出せないじゃないか、とそんな気持ちで一杯でした」と当時を振り返る。

その頃はまだ三井物産の社員だった住吉社長は、在籍中に、社内ベンチャーを立ち上げるというプロジェクトに参加している。事業家精神に富んでいる先輩にも恵まれ刺激を受けた。本社ビルから出てオフィスを借り、仲間5人と外部の人材を100人ほど採用したこともあった。そうした経験をした後、今度は自分が経営者になるための投資先を見つけるためにベンチャーキャピタルに行った。これらの経験が後々、役立つことになるが、この時はまだジーベックテクノロジーのことは頭になかったという。父は父、自分は自分。そんな時に打診を受けたのだった。

「打診があったとき、父が創立したジーベックテクノロジーという会社のことを初めて考えた。ジーベックは技術立脚型の仕事をしており、良い要素がたくさんあると気付いたんです。私は長男だということもあり、父の会社に入社することを決めました」(住吉社長)

ところが、入社してすぐに問題点に気付いたという。
「神経を集中させながら手作業で行うバリ取りはくたびれる業務です。作業者の労力を軽減するためにも自社製品は重宝されると思っていたのですが、当時は、売ったら終わり、という考え方で、市場ニーズを汲み上げ開発に反映させることが出来ていない状況で、売上げが伸び悩んだ」と、思いのほか、苦戦を強いられる状況だったのだ。
そこで前職で経験したことが役に立ったという住吉社長。

「自社の情報発信を強化し、市場ニーズを汲み取り開発に反映していくためには、仲間が必要です。世界中のバリ取り従事者をこの単純作業から開放し、人材の有効活用を推進するためには、新たな発想で事業を展開する必要があります」(住吉社長)
こうした思いから人材の採用に力を入れるようになっていった。

入社してすぐ、採用活動を始めた住吉社長。驚いたのはその面接の人数だ。
「私は毎年数百人も面接をしますが、1人か2人しか採用をしないということを10年間続けています。それはもう地道にコツコツやってきました。おそらく私のエネルギーの半分以上は採用に使っています(笑)」(住吉社長)

昨年開催されたJIMTOFでも来場者で溢れていた
昨年開催されたJIMTOFでも来場者で溢れていた
「ちなみにジーベックテクノロジーへ入社するためには、①書類審査、②一次面接、③筆記、④メンバーとの面談、⑤社長との会食、という5段階をクリアしなければならない。

「製品を生み出すのも人、お客様のところへ行ってお話しをするのも人です。会社の発展は人材にかかっていますから闇雲に採用しません。企業理念と価値観を共有できる人材が来るのを待ちます」(住吉社長)

視点の多角化で既成概念に挑戦! 社員のライフイベントを考える

バリ取りは人手で行うもの」という囚われた概念に挑戦するからこそ、年齢性別を問わず、熱い情熱と高い能力を持つ人物を厳選して採用することが成長のポイントだと考えた住吉社長は、他社で経験を積んで引退した人材を顧問に迎えている。年齢や性別を超えて互いに刺激を受け合う中で志を共有しようという考え方だ。この取り組みで同社は事業を拡大し、業務効率化を大きく達成した。

ここで注目したいのは、社員のライフイベントに合わせた柔軟な制度整備だ。

「採用時の男女差・年齢差関係なし」、「有能な人材は男女問わず積極的に幹部に登用する」という住吉社長の方針は実を結び、現在、当時3名だった女性社員が2014年には2倍の6名(女性正社員割合40%)に、中高年・シニア世代の採用・顧問契約が2名から2014年には3.5倍の7名に増加し、さらに2012年には女性管理職が60%(男2名:女3名)になった。また、社員の産休・育休を見据えて、06年から業務プロセスを見直し、それぞれの環境の違いに柔軟に対応できる短時間労働制度を整備、育児手当支給を制度化した。一方、ベテランの中高年を転職者として受け入れており、その成果は、新規特許出願がなされるところからも大きく活躍しているのが分かる。住吉社長が入社時に感じた課題は10年の歳月を経て解決し、まさに市場のニーズを反映した新開発が事業拡大へと結びついたのだった。

女性の産休・育休については、いつ誰が抜けても業務が滞ることなく継続できるように文書作成のシステム化を実現し、外注・派遣社員を活用して代替可能な体制を構築している。短時間勤務でも効率的な業務を実現するため、製品の基礎テキストを作成し、代理店対応にかかる時間を短縮、新たな実例や製品情報のアップデートなどを一括して行える仕組みにしたのだ。結果、作業時間が約98%も短縮され、生産性が大幅に向上したというから驚きである。2013 年の有給取得日数が前年と比較し2 倍になるという効果を生みだした。

カラフルな商品も人気の理由のひとつ。バリ取りの概念を変えた。
カラフルな商品も人気の理由のひとつ。バリ取りの概念を変えた。
また、子育て中の社員等が短時間労働の中でも能力を発揮できる職務に配置換えを行い、仕事のモチベーションが下がらぬように配慮している。注目すべきは評価に際して、短時間勤務であることが不利にならないよう労働時間ではなく仕事の成果とそのプロセスを住吉社長が判断していることだ。「個人の生活の充実があってこそ仕事がうまくいく」という住吉社長の思いもあった。

「制度だけあっても、運用されないルール(役に立ってないルール)は、世の中にたくさんあると思っています。当社でそれがうまく運用されているのは、メンバー一人ひとりがお互いに尊重し合い協力しようという気持ちや姿勢があるからこそ、生きた制度になっている。その価値観を共有できる人だけを採用しているから出来たことだと思っています」(住吉社長)

バリ取り完全自動化で時間の有効活用を推進!

セミナーの様子
セミナーの様子
さて、バリ取りは、その工場にもよるが、アルバイトも社員も新人もベテランもいる。熟練がずっと担当しているとは限らない。人が変わればスピードも品質も変わるのがバリ取りである。同じ人でも体調の良い日も悪い日もある。1日をみても午前中と疲れが出ている夕方とは仕上がりが変わってくる。一日中、神経を使いながらバリ取り作業に没頭する作業者の負担は相当なものだ。この時間から開放されれば、その分、時間の有効活用にも繋がる。また、バリ取り作業者は女性も多い。

現在、女性活用という言葉を盛んに聞くようになった。
こうしたことから、ジーベックテクノロジーは、加工現場でも女性が活躍出来るよう、作業時間の短縮が実現し、安全面でも安心なバリ取りの自動化を推進している。

また、同社では、金属加工の現場に携わる人々の目線で、バリ取り、エッジ品質、仕上げに関する基礎的・実務的セミナー等サービスを開発し提供する『バリ取り大学』の事務局を担っており、バリ取りに関する全ての問題解決に向けて全力をつくす姿勢だ。

*↓バリ取り大学HP↓
http://deburring-u.com/

最後に住吉社長が一番気をつけていることを尋ねてみたところ、「挨拶です」と返ってきた。

「例えば朝ですと、自分の住んでいるマンションの管理人さんに会いますが、私は元気よく『おはようございます!』と言うようにしています。すると、『張り切ってるね!』と言われます(笑) 朝からテンションが高く、仕事に行くときに張り切っている人は少ないかもしれないけれど、エネルギーは高い方から低い方に流れるものだから、ひょっとしたら挨拶を聞いた人が1日頑張ろうかな、と思う可能性があるじゃないですか(笑)。元気が連鎖する環境は好ましいものです」(住吉社長)

世界中に、“バリ取りの自動化”という新しい概念を与え、性別や年齢を理由に個人の可能性を否定することのない組織を構築したジーベックテクノロジー。工具を販売するだけでなく、世界中のバリ取り従事者を単純作業から解放し人材を有効活用しようという啓蒙活動を行っている。革新的技術で新たな価値創造を生み出す力を秘めた頼もしい企業であった。

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