「製造現場の能率・品質・経済効果を高める仕組みを構築」三菱マテリアル(株) 加工事業カンパニー 山田雅人開発本部加工技術センター長に聞く 

切る、穴をあける、削る――。
あらゆる素材が形になる前の重要な最初の工程である金属加工。裾野の広い自動車産業はじめ電機・航空機産業などの発展の裏には、日本が誇る最高水準の金属加工技術がこれらを支えてきた。安全が求められる自動車や航空機の部品加工は、その製品の善し悪しを左右する重要なものであり、使用される材料も最先端の技術が詰め込まれている。

三菱マテリアル(株)加工事業カンパニーは、切削工具メーカーとして、製造現場の生産性向上と時代にマッチした加工技術の創出に注力しているが、その取り組みのひとつに、現在、個々のユーザーニーズに合致したソリューションサービスを提供する仕組みを構築し、世界中のいつでもどこでも、速やかに加工の課題解決策を見出して、ユーザーが必要とする加工技術と製品を結びつける――そんな画期的な発想をさいたま市から発信しようとしている。山田雅人開発本部加工技術センター長は、「お客様の困り事をテーマアップして解決する場でもあります」と意欲をみせる。

顧客と一緒に課題解決

2010年4月にさいたま市に設立された同社の加工技術センターは、顧客のワークを削り、報告書を書いて最適な加工条件を提示するという役目を担う。

主に次世代工具についての予察を行っているが、これはたとえば自動車のモデルチェンジをしたときに使う被削材をここで試験的に削って実際の製造ラインで使用する切削工具をどんな条件で使用したら能率が良いのかをテスト結果から予察し、開発に活かすといった具合である。

自動車に限ったことではないが、人が豊かな生活を送るのに必要なモノの開発は熾烈である。ここは顧客の縁の下の力持ちとなって、顧客と一緒に課題解決をしながら、競争力のある製品を市場に展開するための手段を生み出す場所でもあるのだ。

同社では、現在、日本の加工技術センターをはじめ、アメリカ、スペイン、中国、タイにテクニカルセンターを設置しているが、今後はドイツや南米、インドなどにも立ち上げる予定だ。これは、さいたまにある加工技術センターが中心となって、各国のテクニカルセンターの連携を強化するのが狙い。

今や世界中どこでも繋がることができる
今や世界中どこでも繋がることができる
「国内外問わず、切削試験が混雑しているなど、なんらかの事情でテスト加工ができない場合もある。たとえばアメリカの顧客が現地のテクニカルセンターにテスト加工を依頼したとしても混雑していた場合、速やかに空いている国のテクニカルセンターが対応する。グローバルな協力関係を構築することによって素早くユーザーに結果報告ができる仕組みがあれば、製造現場に重要な“時間”を無駄にすることはありません」と山田センター長。

さて、三菱マテリアルのソリューション開発・提供基地とも呼べる加工技術センターでは、工具の開発というハード面だけではないソフト面の強化も実施している。切削試験は被削材や工作機械などの設備を含めた備環境などを考慮し、より良い切削条件を見つけ出すのも重要な役割であるが、これを的確かつスピーディに顧客に提供できるようにするための同社の取り組みをざっくり説明する。 

身近なところに隠れている「提案力」

次世代加工を睨んだ「技術の企画」を提案する手法は顧客のテスト環境に大いに役立つ!
次世代加工を睨んだ「技術の企画」を提案する手法は顧客のテスト環境に大いに役立つ!
加工速度と工具寿命の関係を図にした「V―T線図」というものがあるが、これを鉄、鋳物、アルミ、ステンレス、チタンなど被削材ごとにまとめるという。ここで同社の優位性のひとつである、“長年培われた技術データの蓄積”が一役買う。これらの膨大なデータは、アプリケーションソフトをつくってiPadなどのタブレット型端末で見られることで、素早く顧客のワークと同社の工具の選択ができ、消耗品である工具の予測寿命が簡単に分かるという仕組みだ。これらが実現することによって顧客の加工がどのくらい高い能率で作業ができるようになるのに加え、経済効果等も簡単に算出できるようになる。同社では基礎試験や加工デモプログラムの共有化、データベースネットワークの構築をはじめているが、産業別アプリ情報を軸にフィールドテストデータや切削テストデータをまとめることで、顧客が求めるデータを速やかに提出し、顧客に満足してもらえる営業提案ができるという優位性が持てる。

加工技術センター内にあるセミナールーム
加工技術センター内にあるセミナールーム
また、社内でもプレゼン資料の一括管理ができることで、誰でも同じプレゼンができるというオマケも付く。なにより現場の声を活かしたデータの蓄積は製造業にとっての生命線である開発へのフィードバックにも役立つ。

これらの取り組みは製造現場に貢献するだけでなく、同社にとっても強い拡販活動が実現するといえるだろう。次世代加工を踏まえて、基礎試験を実施し技術資料を充実させるという同社の“技術の企画”を提案するという方法は、顧客のテスト環境に大いに役立つ。テストに必要な材料や治具、工具を速やかに整えられることは同社の優位性でもある。

山田センター長は、「提案力は意外と身近なところにも隠れています。われわれは現在、ソリューションを高めようと注力しています。“より多くの設備で、より多くの切り屑を出し、世界へ情報を発信する”という狙いもあります。また、ユニークな加工方法の追究はもちろんのこと、社外・ユーザー教育のシステム化を実施し、ユーザーニーズの掘り起こしや、指導者育成にも力を入れています」としている。

また、現在、同社では切削工具を広めるためキャラバンで全国を回る活動を行い、新しい技術情報や材料に適した加工方法などの情報を発信している。

ものづくりの始めの一歩である加工現場はもう変わり始めている。

三菱マテリアル(株)加工事業カンパニーが今後、どんなソリューションを提供してくれるか期待度は高まるばかりだ。 
 

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