難加工を制するオーエスジー 航空機産業への取り組みとは
最先端技術を活用した製品を提供し、対面型販売組織をグローバルで拡充しているオーエスジー(社長=石川則男氏)は、昨年度、日本の切削工具メーカーとして初めて連結売上高1000億円を達成するという快挙を遂げた。
中でも航空機関連産業が先進国にて活況だったことを受け、航空機関連産業からの旺盛なニーズに対応すべく競争力の高い製品を生み出していることに注目したい。成長分野のひとつである航空機産業への取り組みについて、開発グループ 航空宇宙担当Ph.D 滝川義博 氏、同Aerospaceチームリーダー 辻村桂司 氏にお話しを伺った。
(写真=開発グループ 航空宇宙担当Ph.D 滝川義博 氏)
航空機は難削材の塊
高い寸法精度が要求される航空機―――。
最先端の民間機では徹底して軽量化を追求している。それは機体の薄肉構造にも表れており、強度や剛性も要求されるため、最先端の民間機では重量比50%近くにCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が使われている。注目したいのは、材料を結合する部位にはCFRPと親和性の悪い金属が腐食する現象を避けるため、チタン合金を多用している点だ。いわば航空機は加工しづらい難削材の塊といっていい。
航空機の機体はCFRPを使うが、この材料のやっかいなところは、能率を高めるための高速切削は熱を発生させ、材料を構成している樹脂を劣化させる問題や、穴まわりの繊維がほつれるデラミネーションを発生させる点であろう。滝川氏は、「材料の難削性はもちろん、形状からくる難しさもある。航空機の場合、薄くて長くて面的に大きく保持がしにくい。材料からくる工具の摩耗の速さ、形状からくる加工のしにくさ、これらが加工中に振動を起こしたり、工具の寿命を短くする」と話す。
航空機に適用されている異種材組合せの穴開けも難削性を高めている。その理由について、
「困難なのは大きな径の剛性のない薄くて大きいパーツ同士を繋ぐ場合、保持が難しいうえ、切削油が使えない。この表面に化学成分が残っていると、2~30年、飛行機が飛んでいる間に化学変化を起こす可能性があるので、大抵はドライで加工する。もし使ったとしてもミストで、化学的安定性を認定されたものだけを使う。大物はマシニングセンタの上には乗らないので、特殊な機械を使用し、主翼と胴体を付き合わせて穴をあけて組み立てていく。非常に制約が多く、機械のパワーや剛性が乏しい中で位置精度、穴精度、結合精度を確保しなければならない難しさがある」という。
CFRPのメリットは機体軽量化と耐腐食性だが、素材コストが高い、加工性が悪く工具摩耗が激しいなどのデメリットもある。高価な材料を確実な方法で加工しなければならず、精度の高い解析も要求される。昔はCFRPの穴開けというと、1本の工具で10穴ほどしか開かなかったが、現在、オーエスジーのチャンピオンデータでは厚さ6.3mmで6800穴ほどあくという。ここでオーエスジーの開発努力を知ることができる。
昔は困難だったCFRPの穴あけも今ではスピーディかつ品質のよい加工ができるようになった。工具のポイントは、“コーティングと形状”だという。「ダイヤモンドコーティングを最適な厚さで最適な粒度でしっかり付けること。そこに焦点を当てて研究開発をしている」と滝川氏。開発についての思い出を尋ねると、「当初は良いダイヤモンド工具を開発したもののアプリケーションがなかった。マーケットも知れていた。電着工具のほうが安いし、それでいいという風潮もあってダイヤモンドコートは鳴かず飛ばずの状態。稼働率も低くて不人気だった。ところが1990年代、コンポジットを航空機に使い始めてからダイヤモンドコートが注目され、量産されるようになった。ちょうど自衛隊がF-2戦闘機を生産した時代の話です。あの時は全然穴があかなくて、工具メーカー各社を集めて開発が始まった。あの時代はコンポジットに5穴しか開かなかったけれど、昔は5穴でも許されたんですね」と笑った。
なお、いち早く航空機業界、コンポジット加工に目を付けたというオーエスジーは、世界で初めてダイヤモンドコーティングでも脱膜・再コーティングを可能にしている。同社独自の技術により、超微結晶化を実現し、同時に脱膜を可能にしたのだ。工具、加工費、品質等を踏まえてどんな工具でなにを要求しているのか、現場レベルで熟知していることが強みであり、信頼に結びついている。「顧客の要望に沿ったものを経験から想定してテスト加工をする。設備も購入してでもやりますよ。トコトンやるんです」(滝川氏)
材料を制する切削工具の数々――最新高能率マシンに対応する工具の開発に注力
さて、航空機の大型アルミ部品加工といえば、びびりやすい、溶着しやすい、という欠点がある。能率良く加工するための方策を辻村氏に尋ねると、「加工機に依存するところが大きい。ハイパフォーマンスの機械に対して、機械の能力を最大限発揮できる工具が必要になる」と話したうえで、「一般的に、能率を上げるため高速加工を行うと、加工面がびびる等の問題が起きる。弊社の『AERO End Millシリーズ』により、High M.R.R.な荒加工、段差やびびりの出ない1パス高速側面仕上げ加工などが可能となる。高剛性な工具形状、切り屑排出性を重視した独自の溝フォーム、耐溶着性・潤滑性を向上させるDLCコーティング等により、アルミニウムの高速加工に対応している。」と優位性を示した。 もうひとつ、ジェットエンジンのタービンブレードなど、高い耐熱性が必要とされてきた材料にNi基超耐熱合金等があるが、この材料は、①耐熱性、②靱性、③低熱伝導性、に優れた特性を持つ。現在、自動車部品など利用範囲は拡大しており、そこで、同社では昨年10月に航空機の部品に使用されるステンレス、チタン合金用ドリル『WDO-SUS-』を、本年5月にはチタン合金加工用エンドミル『UNX-TI』を新製品として投入し、ユーザーの加工能率改善に応えられる製品として拡販中である。一方で耐熱合金、チタン合金の巨大市場である北米で実績のある工具として同社が超硬工具とともに推奨するのが、ハイスドリル『VPH-GDS』だ。耐熱合金は超硬でバリバリ削ると表層に加工硬化層、変質層などができることもあり、ハイスで優しく削ることが望ましい事も多いとされている。超硬工具とハイス工具をラインナップするのもOSGの強みの一つだ。 さて、航空機産業といえば、コンソーシアムといわれている大きな組織が2つある。日本で活動している東京大学生産技術研究所 先進ものづくりシステム連携研究センター『CMI』(Collaborative Research Center for Manufacturing Innovation)と、英国シェフィールド大学工学部とボーイング社が共同で設立した先進製造研究センター『AMRC』(Advanced Manufacturing Research Centre)である。現在、AMRCには89社が加入しているが、日本の切削工具メーカーではオーエスジーが唯一の“Tier1”(ティアワン=一次サプライヤー)の位置付けにあると聞いた。 「航空機は様々な材料が使われていて、形も機体とエンジンは全く別のカテゴリーになるので広い知識を有さなければならず、こうした知恵をいただくためにもユーザーへ行くことを大切にしている。われわれが目指している方向は本当に合っているのかと確認する意味もある。競争力の高い製品を開発するため日々努力しています」と力強くユーザー訪問の重要性を話してくれた辻村氏。最後に滝川氏は「航空機関系にどっぷり浸かるチャンスに恵まれ、お客様のところへ通い詰めて色々教えていただいた。精一杯集中してやれるのは、オーエスジーに“トコトンやる”という風土・文化が根付いるからだと思っている。工場があり、試作部門があり、営業がある、というバックボーンがある。1人では切り込んでいけないけれど、後ろに支えてくれる組織があるから、迷わずどんなことでもトライできる」と意気込みを示し、しめくくった。
オーエスジーの強みはなんといってもフットワークが軽いこと。
2020年に売上高1500億円を達成するために、世界中に対面型販売組織を拡充し、柔軟に、そして迅速に、ユーザーニーズに対応し変化できる企業を目指すとしている。