社会を構成しているのは健常者だけではない

先日、友人から「東レ経営経済研究所(現:特別顧問)の佐々木常夫さんの講演を開いたんだけど非常に勉強になった」という話しを聞いた。

東レといえば材料の会社である。日本の経済は材料と加工技術が支えているといってもいい。東レで有名なモノといえば炭素繊維複合材料(CFRP)で、この製造業界に身を置く方ならご承知のとおり、軽くて丈夫、省エネにはもってこい材料である。自動車や新型航空機に一役買っており、とにかく東レは日本だけでなく世界にとっても必要な企業のひとつといっていい。

佐々木氏には3人のお子さんがいる。そのうちの長男は自閉症だ。自閉症といってもまだまだ認知度が低く、脳の機能障害が原因と聞いた。1000人に3人くらいはこの病気を抱えているらしい。

当時、佐々木氏は働き盛り。奥様は一生懸命子育てをするのだけれど、その奥様がうつ病にかかってしまい自殺未遂を起こしてしまう。数年間はずっと入退院の繰り返しをするほどだった。

この状況下、働き盛りの佐々木氏は家事をこなしながら仕事をやり遂げた。佐々木氏はスーパーリーマンだったわけだ。もちろんまだ小さな子どもたちのサポートもあったり、職場での協力もあって仕事も家庭も決してあきらめることはなかった。

―――と、私が一体なにを言いたいのかというと、佐々木氏によると、日本には身体障害者が150万人、自閉症は100万人、うつ病は400~500万人、その他にも引きこもり、認知症、知的障害、精神疾患・・・全てを合わせると2000万人を超えるそう。つまり日本人の5人に1人はなんらかのハンディキャップをお持ちだということ。

ところが、世間は健常者だけで構成されているようにも見える。病気や障害を持っていることは決して恥ずかしいことでもないのに、どういうわけか隠す風潮がある。みんなが公表をしたがらないから問題が表に出てこない。両親も年を取り、痴呆症やアルツハイマーにかかるかもしれない。多くの働き盛りには生活習慣病という病も忍び寄る。もちろん他にも重い病気にかかったり、事故にあったり、よく考えれば人間が寿命をまっとうするまで五体満足で死ねるということは奇跡に近いことかもしれない。

問題は、これらのリスクは人間である限り、誰もが平等に抱えるリスクだということをみんな忘れているということだ。都合の悪い事実には目をつぶり、見てみないふりをする。

今回の東京大節電で感じたことがある。もちろん今時期、節電はとても大切なことだが、駅のエレベーターの表示も暗くて見づらいし、どのエスカレーターが動いているのか表示すら分からない。これが5人に1人はなんらかのハンディを抱えている日本の現状だと思うと切なくなる。

何度も申し上げていることがある。それは、「偏見に満ちたマジョリティが正しいという社会であってはならない」ということ。
健常者だけが社会を構成していると思ったらまさしく大間違いである。

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