今年の賀詞交歓会は記憶に残ることがいっぱいだ!

 現在、新年賀詞交歓会ラッシュも一段落し、たまった原稿を一気に片付けているわたし。年末年始の暴飲暴食のツケである脂肪細胞も増大したようで、皆様に「あれ? でかくなったね」と褒められもせず、苦にもされず、本当のことを指摘されるという新年の幕開けを迎えたわけだが、今年は、どこの会場内も人口密度が濃く、動くのも精一杯。いつもより2割ほど参会者が増えている団体もあった。通常、こういう場合は“経営者の顔色が良い”とされるが、今年はちと違う。アベノミクス効果で企業体力の回復と着実な投資拡大の好循環がありながら、那須リサーチによると、ほとんどの経営者が先行きに若干の難色を示しているのだ。その理由は、皆様ご承知の通り、新興国経済、特に中国経済の減速や原油価格の暴落によるエネルギー産業関連等の投資に陰りが見られるなど、各企業が世界経済の下ぶれリスクを警戒していることが挙げられるのだが、経済動向を予測するというのは、占いと似ているところがあって、よく分からない部分もある。「良いんだか悪いんだかよく分からない・・・」というグレーな感情をフトコロに隠したまま、会場内で会話をしつつ時流を確認するような、そんな印象を受けた。

 さて、今年の賀詞交歓会で印象にあるのは「機電再融合」、「挑戦」の言葉。これにはIoT時代到来の流れとして、すでにメディアでも取り上げられていると思うが、印象に強く残ったことをいくつか紹介しようと思う。

 この業界でご活躍の皆様はおそらくピンとくるだろうが、製造業界のトレンドワードどいえばインダストリー4.0だが、昔日本でやっていたIMS(IMS=Intelligent Manufacturing Systems)と考え方がほぼ一緒である。以前、「ドイツが日本に追いついてきたんだよ」のテーマで、ベストブックス社が発行している月刊ベルダ(コラム:無造作女の独り言)にも書いたのだが、インダストリー・4.0は、ITを利用して変種変量生産を目指し、工場間や企業間の通信ネットワークを介して最も有利で効率的な生産を行う、ざっくりいうと「産業のインテリジェンス化」が狙いだが、すでに20年ほど前から日本が取り組んでいた国際プロジェクトであるIMSの考え方だ。しかも当時は、いつでもどこでもありとあらゆる場所で通信技術を利用する環境づくりを「ユビキタス」(←死語)と呼んでいたはず。これらの取り組みとインダストリー4.0とどこが違うのか、どうして日本は続けてこの提案が出来なかったのか、という疑問がある。この点について、糟谷経済産業省製造産業局長はあいさつの中で「現在ヒヤリングしながら調べている」と述べた。「2004年ほどの報告書の中では、協調領域と競争領域のバランスが取れていない、という報告があった。おそらくこのあたりの問題が10年以上経過しても大きく変わっていないのではないか。またハード面での技術等をさらに磨いていくことは基礎体力として必要。新興国のハード技術の追い上げもある。ものもコモディティ化していく流れもある。このようなことにどう対応していくか」という課題についても触れていた。

 これは、非常に重要なことで、今、製造業界では世界規模で新しいことがどんどん起きてきているけれど、国が過去の経緯をヒヤリングし、具体的な方向を持って取り組んでいるという事実を聞けたことで大層印象が変わった。「今の時流である、IoT、ビッグデータ、人工知能等の技術を如何に活用して繋げ、日本型の対応をどのように行っていくのかが鍵である」と話した糟谷局長の言葉の中に、「例えばドイツがやっているから日本はどうだ、という視点だけで捉えるのではなく試行錯誤しながらでも考えたことを行動に移していかなければならない」ということを含んでいた。おそらくIoTもインダストリー4.0もまだ曖昧な部分がある。つまり、実現していないことは、まだ想像の域なわけで、「言ってるだけじゃダメよ」、ということなのだろう。商売は「なにに貢献して利益を得るか」が基本なので、まずは徹底してその目的は何かを明確にすること。目的を達成するために行動していくことができなければ、どんな素晴らしいシステムをつくったとしても先に進めない。大切なことは「ものづくりの本質とはなんぞや?」ということなのだ、と改めて感じた。

 もうひとつ。
 今回の賀詞交歓会で、製造業界が大注目していたのは、モノをつくるモトの業界、マザーマシンを生み出す日本工作機械工業会の数字だ。花木会長が発表した2016年の受注見通し額は1兆5,500億円程度。2015年と同じ数字であった。2015年の前半は勢いが良かったものの、後半にやや一服感が見られた理由に、補助金効果の剥落や補助金の様子見が挙げられたが、注目すべきは、受注総額として史上最高を記録した2007年の1兆5,900億円、2004年の1兆5,094億円に次ぐ史上3番目の高水準が維持できたこと。

 それよりもなによりも、わたしは2016年の受注見通しの数字を前回と同じ1兆5,500億円程度、としたことに驚いた―――というよりも、花木会長はオークマの社長だが、経営者としてのエンターテインメント性を垣間見た気がした。この数字を話すときの間の取り方が本当にうまくて、会場内がどよめき立ったくらいだ。

 花木会長ははじめに日頃の感謝の意を表し、そして工作機械業界を取り巻く環境などを述べたり、ひととおりお話しをしたあと「・・・さて、このあたりで、そろそろ皆様が気にされております2015年の受注額と2016年の受注見通しでありますが・・・」と口にしたととたん、前列で占領している記者達も若干前のめりになり、その数字を漏らさぬよう、ノートとペンを持つ手に力が入るのが分かった。緊張の一瞬である。数字に至る説明が続く。

「――このような経済、工作機械市場見通しを踏まえ・・・本年2016年の工作機械受注額は1兆5,500億円程度を見込みたいと存じます」

 参会者も「おーっ!」、記者連中も「おーっ!」。大人だというのに、「おーっ!」と思わず声を漏らしたくらいだから、この発表が人々の心をいかに鷲掴みにしたか、ということを想像していただきたい。数字を発表したあとに、「昨年の見通しに再挑戦したい。この達成において各社とも精一杯努力していく」と背筋をピンとしたまままっすぐ前を向いて述べたあたりも、この強固な意志を会場内に浸透させるには十分だった。わたしはこの時、やっぱり経営者だなぁ、と率直に思った。

 ものをつくることは、国力そのものである。「再挑戦」という言葉の中に、いろんな魔法がつまってる気がするねぇ!

 さぁ、2016年もはりきっていってみよう!

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