山一ハガネと仏・PRISMADD社がジョイントベンチャー「PRISMADD-Japan」を設立
(写真=山一ハガネ並びにPRISMADD-Japanの寺西社長)
フランスにあるPRISMADD(プリズマット)社は、航空、宇宙、原子力、防衛、エネルギー、自動車などの主要成長産業における金属・樹脂のAdditive Manufacturing(アディティブマニファクチャリング)を核とした製品開発企業であり、現在、フランス国内に4つの製造拠点を持ち、さらに2拠点を開設予定である。高い技術力とアディティブマニファクチャリングに不可欠な前後工程を整備し、洗練された製造ラインを駆使することで競合他社との差別化を実現している。また、アディティブマニファクチャリング用粉末製造の3Dmaterials社、在庫販売の3DSupply社、技術的サポートの3DXpertise社、最終製品となるまでの部品製造のPRISMADD社というように、複数の企業の強みを集結させることで全プロセスに対応し、機械加工では困難な製品の製造、リードタイムや歩留まりの大幅な改善、トポロジー最適化による提案など、総合的なソリューションを提案している。
エアバス、タレス、サフランなど航空機産業をグローバルにサポートし、さらに新しい市場へと拡大するために、同社ではこのほどアメリカに先立ち日本に新拠点を設立。日本では高級特殊鋼を中心とし、精密加工、熱処理、測定事業で高い評価を得ている山一ハガネ(社長=寺西基治氏、本社:名古屋市)との合弁でPRISMADD-Japanを設立し、この合弁会社でも、アディティブマニファクチャリングの設計・製造、熱処理、精密加工、精度保証の完成部品をワンストップで提供できる強みを活かす。
「we know nothing alone!!!」
2月2日、名古屋市の山一ハガネ本社でPRISMADD-Japanの開所式が開催された。冒頭、PRISMADD社のCEOであるPhilippe RIVIERE氏がプレゼンテーションを行った。今回スピーチではなくプレゼンを行うのは、フランスの思いと日本の魂をどちらも伝えたい、という思いからだという。 「今回PRISMADD-Japanを日本に設立したのは、まずは今日のアディティブマニファクチャリングを日本に提供していくのが狙い。この技術は全ての複合技術である。したがって短い期間で全てを提供するのは難しいので、それぞれの拠点で技術を培い、複合技術を提供したい。たくさんの拠点を持つことで技術や知識、リスクや顧客をシェアしていく。日本でやろうとしていることは、今日のアディティブマニファクチャリングである。まず、プリズマットでアディティブマニファクチャリングのものづくりをする。そしてそのあと、山一ハガネの熱処理、マシニング、測定、といった後工程を一過程で行う。われわれのアイデアとして“3Dトラスト”というシステムをつくることを考えている。これはアディティブマニファクチャリングの材料のデータ、設計のデータ、製造のデータの全てを集めシステムとして管理し、トレーサビリティを確保していくシステムである。われわれはこうしてグループ内でシェアし、共有しあってお客様に提供していくといったアイデアをもって1年前に山一ハガネの寺西社長とスタートした。これも2人のビジョンが一致していたからである」と述べたあと、キャッチフレーズについて触れた。そのキャッチフレーズは、「we know nothing alone!!!」。これは、「われわれは独りではなにも分からない、なにも知ることができない、ということを分かっている。だから全てをシェアする」という意味がある。山一ハガネとプリズマットテクノロジーの出会いは運命であり、必然だった
主催者を代表して山一ハガネ並びにPRISMADD-Japanの寺西社長があいさつをした。この中で寺西社長は参会者に御礼の言葉を述べたあと、「フランスのプリズマットテクノロジーはエアバス社を中心とする航空機産業を支える主要企業と連携し、アディティブマニファクチャリングの最先端企業として実績を積み上げてきた。一方、来年で操業90周年を迎える山一ハガネは創業以来、特殊鋼材料独自のディストリビューションシステムを通して多くのお客様に支えられてきた。リーマンショックを境にお客様に必要とされる会社となるべくさらなる利便性を向上するために熱処理、精密機械加工、精密測定の分野に注力してきた」と述べたあと、プリズマット社のフィリップCEOとの出会いについて語った。
それによると、「昨年1月に初めてお会いしたが、その数年前に日本国内ではにわかに3Dプリンタが話題になりはじめていた。その頃、われわれの特殊鋼ビジネスにどんな影響を及ぼすか期待と畏怖の織り混ざった極めて漠然とした想像しかできなかったがフィリップと出逢えたことで、アディティブマニファクチャリング技術の将来性を感じずにはいられなかった」とし、「その後、フィリップCEOが来日した際、われわれはアクションを起こしてプリズマット・ジャパンのプロジェクトをスタートさせた」と話した。
寺西社長は2人の出会いを「アディティブマニファクチャリングはまさに特殊鋼の素材から最終アプリケーションまでのプロセスを凝縮したもので、歩留まり、リードタイム、多品種変量少ロットタイプ、設計等を含め、コストプロセスが重要である。すなわち、山一ハガネとプリズマットテクノロジーの出会いというのは運命であり、必然であった」と述べたあと、「日本のものづくりの中心である中部地区では自動車産業のみならず、航空機、防衛、宇宙、エネルギー、医療といった様々な分野で進化する技術の中で、このアディティブマニファクチャリング技術が活躍する機会が大変増えてきている。そのような環境のもと、プリズマットグループのノウハウと素材からはじまり全てのプロセスでお客様とアクセスできる山一ハガネの特長を利用してアディティブマニファクチャリング製品の開発と製造に取り組んでいく」と力強くしめくくった。ジェローム デキアン フランス大使館 ビジネスフランス 日本事務所代表補佐が来賓を代表してあいさつをした。
山一ハガネの工場内は最先端の設備がズラリ!
写真撮影がNGなのが残念だが、3Dプリンタが1台あり、加工したサンプルが置いてあった。岩崎さんは、「初年度は、SUS630 17-4PHと64チタンの2鋼種でやっていきたいと思っている。それ以外の金属に関してはグローバル対応ができる。アディティブマニファクチャリングというのは、最適なパラメータでレーザを当ててつくるのが非常に重要になるので、パラメータの知識を全世界で共有する。ステンレスについてはフランスでかなり知識があるので、プリズマット・ジャパンでもこの先進的な知識を使って行っていく。また、フランスでは日本にはまだない最先端のシミュレーションシステムで最適化を行っており、このシミュレーション技術を使って最適形状を再設計して部品をつくっていく。プリズマット・ジャパンは山一ハガネの構内にあるので、一貫して部品が製造出来る。こちらで造形して熱処理をして機械加工をして測定をして、という最初から最後までノンストップでできる。機密保持の点でもとてもメリットがある」と説明をした。
アディティブマニファクチャリングは粉から積層するので、表面粗さに限度がある。そこで、マシニング工程が必要になる。山一ハガネの強みは、たくさんの最先端の工作機械を持っていること。一貫してマシニング工程まで行って製品として完成させる優位性がある。また、同社では、日本最大級の10気圧熱処理設備を新設しており、4月に本格稼働するという。熱処理設備は、熱い、うるさい、という暗いイメージがあるのだが、この工場は“クリーン&サイレント”。すごく静かなのだ。作業者と環境に優しい設備を構築していた。現在、月に25トンの処理能力がこの増設で倍の50トンに増える。他にも同社では世界最大級の測定機を持っており、今後の展開がものすごく楽しみだ。
PRISMADD-Japanは、「自動車、エネルギー分野のみならず、2015年11月に初飛行を終えたMRJ(三菱リージョナルジェット)に代表される新たな航空機産業への参入を含め、日本のものづくりに貢献する」としている。