小千谷の底力と地域力に注目! “おぢやモデル”で人材育成


(写真=木村敬知 小千谷鉄工電子協同組合理事長、第一測範製作所社長)

 製造業にとって、技能継承は重要だ。ご承知の通り、最先端技術を支えるキモには優れた技能者の存在がある。技能継承がスムーズにいかなくなるということは技術力の低下を招くことに繋がり、特に中小零細の場合は人材コストの問題も大きく、社員教育をどうするか、という大きな課題もあろう。金属加工業で有名な新潟県の中でも小千谷市は特定分野で高いシェアと技術力を持つ企業が豊富であることが有名であり、技能伝承を目的した“テクノ小千谷名匠塾”(小千谷鉄工電子協同組合理事長=木村敬知氏 第一測範製作所社長)が存在する。この塾は小千谷地域の製造業界を将来牽引していく人材育成のための機関でもあり、現在、汎用旋盤、NC旋盤などの工作機械ごとに実技・学科を学び、国家技能士の資格習得を推奨しているが、設立してから現在までの技能士合格者数は124人となった。また、小千谷地域の技術レベルが高いまま維持しているという魅力あふれる地域の力はさらにパワーアップ。最近では産官学連携の「おぢや・しごと未来塾」が「おぢやモデル」として注目された。

 木村理事長と事務局の櫻井貴将氏(小千谷商工会議所主任)に、お話しを聞いた。

中学生に仕事をPRする理由

 ―小千谷企業の魅力を若者に示し、人材育成に注力されていますが。
 木村 高度な技術レベルを保ったまま維持していくためには人材育成が鍵となります。そのためには、中学生くらいの早い段階から“ものをつくること”に興味を持って欲しい、企業を知って欲しい、という思いがあり、初企画である“おぢや・しごと未来塾”に参加しました。中学生に仕事をPRするというのは滅多にない機会です。
 櫻井 小千谷は恵まれている地域だと思います。有名どころでは鯉、蕎麦、織物、金属加工等ですが、これらはわれわれの生活を豊かにするための重要な部分です。小千谷にいる若い方達は、このありがたみが近すぎて見えづらい、意識しづらい、のかもしれませんね。

櫻井 小千谷商工会議所主任
櫻井 小千谷商工会議所主任
 木村 高校生、大学生は卒業が近くなると自分の進路を選びます。その時に、自分の業務内容や勤め先をイメージすると思いますが、それよりももっと早い時期にものをつくる現場を知ってもらうと、もしかしたら学校の勉強も楽しくなるかもしれないし、やりたいことが見つかるかもしれない。特に職人を育てるという点においては、時間がかかるし、興味がある人じゃないと難しい。まだ勉強をしている若い方達が早く興味を持って取り組めば、それだけ早くモノになる可能性はあります。その一方で、若い方だけじゃなく、年配の方や様々な業種の方にも知って貰うことで、職種を替えて入社を希望される方もいらっしゃる。日本はだんだん人口が減少していくのは分かりきったことですが、この新潟にいるとなおさら感じます。対応を早くしなければ、という危機感がどこの企業にもあると思います。
 櫻井 まだ中学生の早い段階から地場の産業に、こういう仕事があるんだよ、と教える仕組みは画期的なことだと思います。 “おぢや・しごと未来塾”には市内30の企業や団体、公共機関等が協力しました。これは、小千谷市と市教育委員会、小千谷西高校が主催したものですが、まさに地域力を示した活動だと思っています。鉄工組合では小千谷西校に学校での授業と企業の実習とを並行的に実施する職業訓練システムとも呼べる日本版デュアルシステム導入の活動をしていますが、まず、この学校に興味がわくよう中学生のうちから知って貰えればいいですね。
楽しくねじ切りを体験する中学生。
楽しくねじ切りを体験する中学生。
 ―日本はドイツのようなマイスター制度はないですが、学生を受け入れる企業にとっては有効な採用手段になると思います。仕事のやりがいを理解した上で入社したとしたならば、会社への定着率も期待できます。
 木村 こうしたシステムは、まず協力企業の確保が不可欠ですが、小千谷には優良企業が集積している恵まれた地域。一方、全員が訓練先に就職するわけでもないので、もちろん卒業して、市外・県外に出る、という選択肢もあるでしょう。その時に、“そういえば小千谷ってこんな企業があったな、こんな基幹産業があるんだな”と思い出して貰えれば、社会人になって外に出たとしても、地元企業と繋がり戻ってくる一つの材料となる可能性もあります。

「世代の架け橋」がテーマ

こちらは測定体験。早いうちから、子どもたちにものづくりの楽しさを!
こちらは測定体験。早いうちから、子どもたちにものづくりの楽しさを!
 ―子どもってモノをバラしたい欲求があると思うんです。今の子ども達ってどうなんでしょうね。
 木村 ものをバラしてみたい、そして元通りにする、というあの欲求は本能のようなものだと思うんです(笑)。壊してみたい、は作ってみたい、と同じことのような気がする。年配の方から、ラジオが、“なんでここから声が出るんだ?”って不思議になって、分解してよく見て、自分でトランジスタラジオを作った、なんて話を聞いたことがあります。
 櫻井 今はお金さえ出せばすぐに手に入るという時代になりました。
 木村 最近知ったんですが、学校の授業で工作がなくなっているらしいんです。昔は小千谷の小中学校も、文鎮をつくったり、ねじをつくったり、ちりとり、ドライバーもつくったりしていたんですが、それもなくなってしまった。鉄工組合員の経営者も、子ども時代につくった工作がきっかけで、起業したという方もいます。子どもの時にこうした経験をして、そこで自分はなにが得意なのか目覚める、ということもある。この社長さんが子ども時代に感じたことは、学校のイベントで生徒が作った作品をズラリと並べたその時、“自分のがうまいや!”だそうでした。
 櫻井 優越感やちょっとした競争心が、ものづくり心を芽生えさせる良い教材だったんですね。
 ―工作の授業は情緒教育にもいいと思います。モノをつくる場合、出来上がりをイメージしますから、そこで創造力が自然と身につくのに、勿体ない話です。
 木村 そうですね。勿体ない話だと思います。高校生が中学生に、中学生が小学生に、というような形で、自分が教えることでまた学ぶこともあります。希望の塊でもある子ども達に向けて情報発信も強化しているところなんですよ。
 ―競合する会社があっても、みんなで地場産業を盛り上げよう、という気概を強く感じます。
 木村 製造業が高度な加工や生産技術を維持しつつ成長していくためには技術・技能の伝承が必要不可欠です。小千谷は世界的にも高い信頼を得ている企業が多いからこそ、互いに切磋琢磨できる環境にあるといえるでしょう。小千谷の基幹産業がさらなる発展をするためにも企業が集結し、人材の育成に注力することはとても重要なことなのです。生きがいを持って働く人々を育成し、匠の技を伝承することは、地場の活性化をはかることになります。世代を超えて業界に人材を導くということは、まずは業界を分かりやすく伝えないと理解をしてもらえません。車の部品をつくる工作機械の中の要素部品をつくっているんですよ、といっても、理解しにくいので、こうしたことをいかに分かりやすく伝えるか、というのが今後のポイントになってくると思います。大きな流れをつくることは一社だけではできませんので、地域企業間での情報交換をしながら、今後も活動に注力していきたいと考えています。