見たくないものに目を向けることも時には必要

ものすごく気になることのひとつに近年、ものづくりの重要性が問われている割には、薄っぺらい議論ばかりが先行してしまい、肝心なキモの部分に触れられていないことがある。

2年ほど前のことだった。ものづくり補助金(試作開発支援事業)の採択結果が出たけれど、「試作・開発」として事業主が申請した件数は7387件。うち採択数が1657件。分野別は公表していないが、この数字を見る限り、いかに国内製造業の現状が厳しいか分かる。

「試作・開発」として募集をかけているにもかかわらず、7387件のうち、5730件に斬新な技術開発が見つからなかった。78%も目新しい技術がないのに申請してしまうところに製造業の厳しい環境を見た気がする。

バブル崩壊やリーマンショックなどの異常経済時は、ほとんどの経営者の顔色が悪かった。問題は、景気が良くなっても、数字が上がらないところ(業界)だ。これは、企業うんぬんの前に産業構造を見直す必要があると感じている。国が中小企業救済の一環として展開しているシステムを単なる“延命措置”だけが目的の会社に利用すべきではない。

不景気のニュースになるとよく中小企業が映し出される。経済からのアプローチだと、景気が悪いありきで視聴者に分かりやすいよう訴える手ではあるが、「大変だ、大変だ、なんとかしてくれ」ばかりじゃ問題の本質が隠れてしまう。TVの討論番組でも、中小企業を代表していつも“業績の悪い”町工場の社長と産業に疎い政治家やタレント学者が環境悪を訴える。これは非常にやっかいなことで、国民に「あの専門家が言っていたから」という、メディアの“入れ知恵”がはびこる結果になり、問題の本質が雲隠れしてしまう。問題の本質を突き詰めるどころか、「経営者は大変ですね」の一言で片づけられる可能性だってあるのだ。

中には、困ったことに「他に会社の経営がうまくいく方法があるのなら、それを教えてください」などと開き直る場面もしばしば見られる。本来、「それを考えなきゃいけないんでしょ」と言いたいところだが、一部のメディアがこうした発言を擁護するものだから、とうとう現実的な問題点を探るよりも、『中小企業=弱者』という風潮がまかり通るようになってしまった。私が最も懸念する風潮の一つである。

中小企業のほとんどは資金繰りに四苦八苦している。
「お金がなくて資金繰りが大変だ」と言っているのと、「お金がなくて技術開発ができない」と言っているのとは意味が違う。能力のある会社と他力本願の会社が中小企業というワクの中でゴッタになり、中小企業全体が沈んだ印象を与えることも問題である。今や有能な企業に企業規模は関係ない。有能な企業に資金を流して国際競争力の強化に一役買って欲しいと願っている。

別件だが、いまだに多くの加工現場が手形決済に苦しんでいる。これは21世紀のこの日本で唯一グローバルスタンダードから外れた仕組みだといえるだろう。個人的には手形制度なんていうものはそのうち無くなればいいと思っている。
製造業を取り巻く環境は恐ろしいスピードでグローバルに進んでいくのに、いまどき手形などナンセンスそのもの。20世紀中に始末しておくべきだった(←あくまで個人的な意見)。
今の時代、何があるか分からない。

現在、円高と電力供給問題でますます空洞化が加速すると言われている。体力のある企業は海外で事業を展開できるけれど、そうでない企業のほうが圧倒的に数は多い。やった仕事の半年後(←半年後というのも妙な話だが)にカネが入って来るとは分かっていても、この半年の間になにが起こるか分からない。回収できずに連鎖して倒産・・・という恐ろしいシナリオだって全くないとはいえないのだから、売上を伸ばしても不安は拭えないのは当然のことである。利益なき繁忙ほど嫌なものはない。

縮小する国内市場を前に問題の本質をきちんと見出して対応していくことはとても重要なことだと思う。

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