三菱マテリアル 鶴巻二三男常務(加工事業カンパニープレジデント)に聞く ~新ブランド「DIAEDGE」にかける想いとは~
三菱マテリアル・加工事業カンパニー(三菱マテリアル常務:カンパニープレジデント=鶴巻二三男氏)の勢いが止まらない。本年5月グローバルに展開する新商品ブランド「DIAEDGE(ダイヤエッジ)」をリリース、現在大きな注目を集めている。また、6月には、切削加工ユーザーの技術サポートを目的とし、オープンラボとしての機能を併せ持つ「中部テクニカルセンター」を岐阜製作所内に約15億円の総投資額をかけて新設した。
3年前に立ち上げた同社の“ワクワクプロジェクト” は、“ワクワク”がキーワード。これは、「社員とお客様のワクワクを叶えつづけて、顧客満足ナンバーワンのプロ集団になる」ための取り組みとしてスタートさせたものだが、地道な活動を通じて効果も上がってきている。
旬な話題が豊富な三菱マテリアル 鶴巻二三男常務に、お話しを伺った。
お客様と感動を共有し挑戦し続ける
―2014年に加工事業カンパニーの活動指針が策定されました。
鶴巻 お客様の近くで寄り添いながら、信頼を得て多くの方々に声を掛けて頂けるメーカーでありたい。われわれは、ものづくりのプロフェッショナルとして、お客様のビジネスを成功へと導くことが使命だと考えています。“YOUR GLOBAL CRAFTSMAN STUDIO”、あなたの、世界の、総合工具工房とうたっていますが、お客様のご要望は多岐にわたり、それぞれが異なった加工の課題をお持ちです。“YOUR GLOBAL CRAFTSMAN STUDIO”には、お客様それぞれの課題やお悩みに全力で向き合い、世界にひとつしかない、あなたのための「工具工房」である、という意味が込められています。
―グローバル競争力を高めるための価値を創造する活動の一環として「ワクワクプロジェクト」も立ち上がり、社内では一丸となってこの活動に取り組んでいますが、注力された点を教えてください。
鶴巻 ワクワクプロジェクトは加工事業カンパニーが2020年におけるあるべき姿として定めたビジョンであり、“社員とお客様のワクワクを叶え続けて、顧客満足ナンバーワンのプロ集団になる”ための取り組みです。感動がなければその感動を伝えることができません。お客様と感動を共有するには、まず、社内で感動を共有できる風土がなければと考えました。そのためには各部署の垣根を取り払い、カンパニー内で情報を共有しつつコミュニケーションの活性化を図ることに注力しました。社内の風通しを良くし、情報が行き届くことによって、顧客視点に立ったスピードと変革が実現します。お客様より真のパートナーとして信頼を得て、活力溢れたワクワクする事業体になることを目指しています。
鶴巻 加工事業カンパニーでは、これまで製品の特性や販売地域の形態に合わせて異なる名称・呼称を活用して運用していました。商標としては、国内では「DIATITANIT(ダイヤチタニット)」を1956年に商標登録する一方、海外では統一した商品ブランドが無い状況でした。2000年にはミラクルシリーズで支持を得ていた神鋼コベルコツールを吸収合併しましたが、このとき、お互いの“旗印”を下ろして、一体感を持って三菱の名のもとで頑張っていきましょうと2003年の国内製造・販売組織の再編を機に「MITSUBISHI」を企業ブランドとして活用してきました。そんな中、我々を取り巻く環境の変化を考え、三菱マテリアルの工具として未来を見据えたときに、「1つの商品ブランドが欲しい」という結論に達したのです。現在、三菱マテリアルの切削工具、三菱マテリアルの建設工具など、という言い方しかしていないのですが、今後は超硬製品のお客様に対してグローバルで統一した商品ブランド「DIAEDGE」を展開し、超硬製品事業の拡大を図っていきたい。「DIAEDGE」といったら、三菱マテリアルの工具だ、と世界中のユーザーがポンと頭に浮かぶようにしたいですね。
―三菱といえば強力なブランド力があるように見えます。
鶴巻 たしかに三菱といえば銀行も重工もありブランド力がありますが、その一方、海外では三菱1つの会社だと思われているようなところもあります。三菱が切削工具を製造していること自体を知らない方もいらっしゃいます。そこで三菱マテリアルのカッティングツール、というよりは「DIAEDGE」が切削工具だ、と広く認知されるようにしていきたいと思っています。
赤のスリーダイヤが復活! 原点に戻りながら新しいことにチャレンジ!
―9月にドイツで「EMO」があり盛況のうち閉幕しました。10月には名古屋で「メカトロテック(MECT)」と大きな展示会がありますし、認知度を高める良いチャンスですね。鶴巻 先月ドイツで開催されたEMOでは、「DIAEDGE」を掲げた初の展示会となり大きな反響を得ることができました。今月開催されるMECTは国内展示会としては初めてとなり、皆様のお披露目に良いチャンスですので、皆様に広く認知されることを願っています。
―今年になって、企業ロゴがローソク三菱と呼ばれる青文字MITSUBISHIから赤のスリーダイヤに変わりました。
鶴巻 社内も変革し、新たな気持ちでスタートする4月にタイミング良く変えました。赤のスリーダイヤが復活したのは、原点に戻りながらも新しいことにチャレンジし、持続的成長を見据えながら飛躍していくという思いが込められています。
―新ブランドの誕生で開発スピードも気になるところです。
鶴巻 時代の流れも早いので以前よりも早くなっています。それなりの陣容も揃えていますし、迅速に進める体制になっています。ここは総合メーカーであるわれわれの強みでしょうね。
―6月に稼動した中部テクニカルセンターのその後はいかがでしょうか。
鶴巻 お陰様で好評を頂いております。実際の加工テストの立ち会いも含め、フルに来場者の予約が埋まっている状態です。
―セミナーの「切削アカデミー」も非常に評判が良いとお聞きしています。
鶴巻 募集をするとすぐに満員になってしまうので、ご期待に応えるよう追加をかけるときもあります。
―今年から有料になりました。
鶴巻 その分、どこにもないような加工のネタを用意しております(笑)。ここで学んだことは財産になると確信しています。加工現場では、初めて見るような材料や加工物もあります。個別にお客様から言われて加工のテストをしていますが、今では皆様、「新しい仕事ができるのではないか」、との期待を込めて、「予め準備をしておきたい」という流れになっており、待ちの姿勢ではなくなってきていると感じています。したがって、われわれも一般的な切削工具の使い方のようなセミナーより、より専門的かつ高度な内容を提供しています。
成長促進事業としての位置付け
―中期経営戦略について教えてください。
鶴巻 今年から中期経営“計画”ではなく、“戦略”、と呼んでいます。まず、三菱マテリアル全体として、事業ポートフォリオを最適化して、3年間の方針を新たに発表しました。セメント、金属製錬、リサイクルの「安定成長事業」、電子材料事業、アルミ事業は「収益改善事業」、そして「成長促進事業」にあるのがわれわれ加工事業です。メインは工具事業ですが、会社の成長をこの3年、5年、牽引していく事業として位置付けられました。われわれとしてはありがたい限りで、社内のモチベーションも上がっています。しっかり戦略を立てれば、ベースがあるので、そこに資金や人をつぎ込めます。
―注目している分野についてのお考えは。
鶴巻 自動車、航空機、医療、金型の4分野には常に注目していますが、その中でも特に難削材の宝庫である航空機関係に注目しています。われわれの中ではヨーロッパが先行していますが、ここの航空機メーカーの研究機関に参画し、今後の方向性に対してのテーマをもらって一緒に開発をしています。これがどんどん膨らみつつあります。
―貴社ならではの優位性を教えてください。
鶴巻 日本だけがズバ抜けて良いサービスを提供しているのではなく、世界中、どこに行っても同じようなサービスが受けられるようなグローバルな販売力とネットワークに強みがあると思っています。テクニカルセンターをここ数年、スペイン、アメリカ、タイ、中国と、主要拠点に造っています。海外生産拠点についてはドリルとエンドミルの大きな量産工場を最近インドネシアに造りました。日本のお客様が海外に行かれたり、海外のお客様への身近なサービスも重要です。今後の目標としてはお客様のご要望ごとのサービスや商品を造れる体制をしっかり構築していきたいですね。
―オーダーメイドも考えていますか?
鶴巻 はい。今はまだ規模が小さいのですが、どんどん推進していきたいと思っています。われわれの強みは、加工事業だけではなく会社全体で様々な事業展開をしていること。近年IoT、AI等の流れがある中で、工具メーカーのあるべき姿、求められているものを追求していくつもりです。社内ですと例えばセラミック部品も電子材料関係もあり、高度かつ様々なセンサー技術を持っています。中央研究所でも材料や膜等の開発を行っているので、そうした“横繋がり”も活用できる優位性があります。
―次世代へのバトンの渡し方についてのお考えをお聞かせください。
鶴巻 オーナー企業ではないので、何十年もトップが変わらないということはありません。ワクワクも、DIAEDGEも、個人で決めたわけではなく、将来を担っていく候補が出席する会議で決定しました。おそらくこの場にいた皆さんが個人的に様々な意見を持っていたのでしょうが、会社も10年15年経つと時代とともに形も変えていくでしょう。しかしながら根幹が変わらないように動いていくべきだと思っています。そういった取り組みについては意識をして心がけています。一方で社会の動きに合わせたマイナーチェンジも必要でしょうから、できるだけ多くの人たちが外と触れ合う機会をつくっていきたいと思っています。
―ありがとうございました。