【トップインタビュー】「お客様のニーズに合わせてコーディネートするのが機械工具商の仕事」 ~全日本機械工具商連合会 坂井俊司会長(NaITO社長)に聞く~ 

 戦後、「終戦処理」という名目で放出された機械や切削工具類。これに素早く目をつけた人々はこれらを市場に流通させた。現在活躍されている機械工具商の多くはここから誕生している。1950年に勃発した朝鮮戦争は長らく停滞していた業界好転の機会となり、ここから日本経済は一気に拡大路線を突っ走ることとなった。日本の自力回復力のもととなったのは、まさに機械・工具業界の底力にあった――。
 
 朝鮮戦争が勃発する2年前の1948年、全日本機械工具商連合会(通称:全機工連)は、全国の機械・工具の販売業者が公定価格撤廃運動を目的として、結成したのが始まりである。本年6月に、新会長に就任した坂井俊司氏(NaITO社長)に機械工具商の現状についてお話しを伺った。

技術を売るということ

 ―現在、機械工具商のグローバル化が課題とされています。
 坂井 グローバル化といっても、機械工具商は規模が様々です。1~2人のところもあります。少ない人数でも、フットワーク良くお客様にしっかり入り込んでおられるところもありますし、大人数で様々なお客様に取り組んでおられる方もいらっしゃいます。グローバル化と一言にいっても、それぞれの背景も違いますし、全ての方々が足並みを揃えてグローバル化をするというのは難しい側面もあると思っています。
 ―20年前には見られなかったネット通販等も出てきました。20年前の会員数はだいたい3,000社ほどあったと思いますが現在はいかがでしょうか。
 坂井 1,550社です。機工会がなくなってしまった地域もあります。
 ―機械・工具・周辺機器の技術を売るからこそ、先方にメーカーの優位性を説明するのは重要なことだと思います。対面販売の重要性についてお聞かせください。
 坂井 加工というのは、ただ削れればいいというものでもありません。削る対象物の材質や求められる精度によって難易度は異なります。日本には、加工が難しい仕事しか残っていないのが現状です。精度もあまり重要ではなくて、大量にどんどん削っていればいいという仕事は、コストの安い国に回っています。日本に残る製造製品というのは難易度とともに付加価値の高いものになります。そうなると、付加価値の高い商品で高能率に加工していかなければなりません。スピーディに効率良く美しい穴を開けるには、技術を有した工具でなければならず、そこは一品一葉、お客様のニーズに合った商品をコーディネートして提供するのが機械工具商の仕事だと思います。
 ―販売に関して重要視していることはありますか。
 坂井 お客様の必要なものを探して売る。お客様の要望をしっかり理解することでしょう。お客様も多忙ですから、猫の手でも借りたい、と感じている時に、われわれは猫の手になれるかどうか、という点も大切だと思います。本物の猫の手じゃ役にお立てませんが(笑)
 ―物流は物品だけでなく情報も一緒に運ぶようなところもあります。
 坂井 ただのデリバリーではなく、そこに情報を付加する、テクニカルな要素を付加してお届けするのは大切なことです。そこに自分たちなりの経験値を持てば最善だと思います。

突き詰めると「人間力」しかない

 ―ところで、機械工具商の業界団体があるということをご存じない方も多いと思います。
 坂井 パッと目を惹くような華やかな業界ではないのであまり知られていないと思います。ものづくり全体にスポットを当てられていなかったことも原因のひとつだったと思いますが、現在、国の施策として、ものづくりに国のお金を投入するという動きがあります。こういった良い動きのなかで、製造業を取り巻く業界全体の認知度も高まるように全機工連の活動をしていきたいと思います。
 ―新興国の追い上げも気になります。
 坂井 どんなに良いものをつくっても、売れなければ終わってしまいます。現在、中国が電気自動車を製造するとのことですが、かつて日本が経験したように、トライアンドエラーを繰り返しつつ、そのうち立派なものが出来上がってくる可能性が高いと思います。6~7年前、中国のあるメーカーが製造した車は、ドアを閉めると4ミリほどズレていて精度が非常に低い印象を受けました。今の日本では考えられないことです。ところが今でもこのメーカーはちゃんと潰れずに会社として存在しています。それは改善に改善を重ね精度を高めた技術力の向上があったからだと思います。また、中国は造っている量が違いますので、そのデータだけでももの凄いことになると思います。
 ―販売の今と昔の違いを感じることはありますか。
 坂井 基本的には変化はないと思いますが、標準品であれば機械工具商に頼まずネットで購入するという方も増えていくでしょう。
 ―必要とされる機械工具商に重要なことはどんなことだと思われますか。
 坂井 専門性の向上と、お客様との交渉力がポイントになると思っています。販売力を突き詰めると“人間力”しかない。大切なことは機械工具商としてのスキルをアップすることで、その中にはテクニカルな要素とコミュニケーションの部分と、この2つを磨いていくことだと思います。
 ―テクニカルとコミュニケーションを磨くために必要なこととは。
 坂井 商品のことを勉強し、お客様に負けない知識を身につけること。これは単にカタログでデータを覚えているとか、そういうことではなくて、現場に行って仕入れる情報が鮮度も高く重要なことが多いものです。経験則は、経験を積んで分かるもの。お客様の身近にいることで、“なにが必要か”と気付かされることも多いのです。

先月名古屋で開催された「MECT2017」のNaITOブースにて。丁寧に来場者の対応をしているのが印象的だった。
先月名古屋で開催された「MECT2017」のNaITOブースにて。丁寧に来場者の対応をしているのが印象的だった。
 ―ところで、坂井会長はNaITO社長ですが、次の2020年度に向けて「Achieve2020」を掲げてチャレンジしていますね。
 坂井 今回は新規開拓や新商品開発の重要性を踏まえて「新しいことに挑戦!」をキャッチフレーズに掲げました。また、前回の中期経営計画では目標達成に至らなかったため、立てた目標を必ず達成する強い意思表示として『やりきる』ことを意味する「Achieve」を中期経営計画のタイトルに使用しました。NaITOのモットーは、地域密着、専門性の向上、対面販売の徹底です。お客様の痒いところに手が届くような、そういう会社を目指しています。
 ―ありがとうございました。

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