天田財団が創立30周年記念式典・平成29年度助成式典を開く ~助成件数94件、2億5000万円の助成~
天田財団(理事長=岡本満夫氏)が、このほど平成29年度の前期助成テーマを決めた。助成総数は94件、助成金総額は2億4,179万円。昭和62年の設立以来、30年間で累計助成件数は1,553件、助成金総額は24億1,593万円となった。この財団は、金属等の塑性を利用した加工やエネルギー下での諸特性を利用した加工の研究に係る助成を通じて、金属等の加工に関する学術の振興と新科学技術の創出を図り、日本の産業と経済の発展に寄与することを目的とし、1987年に財団法人天田金属加工機械技術振興財団として設立。金属等の塑性加工分野における機械・加工システム技術に関する研究開発助成事業、並びにその普及啓発事業を開始したことからはじまる。また、1987年からは塑性加工分野へ助成を行い、2007年からはレーザプロセッシング分野へも枠を広げている。
今回の研究開発助成の総額は82 件・2 億3,709 万円。内訳は「重点研究開発助成A(グループ研究)」が塑性加工 首都大学東京システムデザイン研究科 教授 楊 民 氏「デジタルプレス加工のプロセス見える化・知能化技術開発」1 件・計2,000 万円、レーザプロセッシング 理化学研究所 ユニットリーダー 杉岡 幸次 氏「複合超短パルスレーザ3 次元微細加工技術の開発と高機能デバイス作製への応用」1 件・計2,000 万円。
「重点研究開発助成B(課題研究)」が塑性加工3 件・計2,980 万円、レーザプロセッシング3 件・計2,987 万円。「一般研究開発助成」が塑性加工33 件・計6,443 万円、レーザプロセッシング30 件・計5,400 万円。
「奨励研究助成A(若手研究者)」が塑性加工3 件・計599 万円、レーザプロセッシング5 件・計1,000 万円。奨励研究助成B(萌芽的研究)」が塑性加工3 件・計300 万円。
国際交流促進助成の総額は12 件・470 万円。内訳は「国際会議等開催準備助成」が塑性加工2 件・計100 万円、レーザプロセッシング2 件・計100 万円。
「国際会議等参加助成」が塑性加工3 件・計95万円、レーザプロセッシング5 件・計175 万円。
助成金額共に過去最高。テーマもレーザ関連を中心に広がる
11月25日(土)、FORUM246(神奈川県伊勢原市)で創立30周年記念式典・平成29年度助成式典を開いた。 あいさつに立った岡本理事長は、日頃のお礼を述べたあと、「当財団は1987年、現アマダホールディングスの創業者、天田勇の個人資産を基金として助成を通じてわが国の産業および経済の発展にいかに寄与できるかということを目的とし設立したもので、本日、創立30周年を迎えることができた。当初は塑性加工分野への助成だったが、その後時代の要請に応え、新たにレーザプロセッシング分野も加えて2011年に現在の公益財団法人天田財団へ移行した。本年度の助成件数は94件、金額が2億5,000万。ものづくりはわが国が最も得意とする分野であり、来るべきスマート社会においても、その唯一性を維持するためにも産学官スクラムを組んで、明確なるビジョンを掲げて行動することが肝要ではないかと思っている。」と述べ、産学官の連携による研究開発推進については、「規模の拡大と同時にステータスの研究の成果を掘り起こして、民間の企業を促進させることも重要なテーマではないか。その中のやっぱり一番大事なことは、産学官をいかにつなぐか。これも不在が指摘されている。創立30周年という節目の中で改めて財団の助成の在り方、世の中の動きにどう同調していくか。そこで天田財団がつなぎ役を積極的に引き受けていくことも大事ではないかと判断している。」とした。また、金属等の加工に関する優れた研究活動や国際交流への助成、その助成研究成果を産業界へ普及、啓発することについては、「当財団の社会的な使命であるといえる。本日の助成式典は、皆さまに天田財団の思いを受け止めていただき、この研究に対する、取り組んだ大事なスタートではないかと思っている。」とした。
今回は、助成金額共に過去最高となった。テーマもレーザ関連を中心に広がりをみせており、岡本理事長は、「内容的にも医療用への応用など非常に注目されるものが多かったと聞いており、今後の成果報告が楽しみである。」期待を示したあと、「アマダは昨年創業70周年を迎え、そのアマダから誕生したこの天田財団が今年30周年を迎えることができた。財団の発展的な継続は、アマダグループの事業の発展、そして何といっても業績向上の利益を出していく必要性がある。昨年70周年を機に、変革と挑戦というテーマを掲げて、アマダグループは経営改革をしていく。」と意気込みを述べた。
来賓祝辞
来賓を代表して、岡本繁樹 経済産業省素形材産業室長が、「本日、記念式典および助成式典が盛大に開催され、岡本理事長をはじめ助成をお受けになられる皆さまに心からお喜び申し上げる。また、岡本理事長は本年春、旭日中綬章を受章された。アマダホールディングスにおける社業での功績、貴財団において助成対象の拡大、産学交流、関係工業界との連携の強化などの功績によるものと存じている。あらゆる金属の素材に塑性加工の方法によって形状を付与し、川下の自動車、産業機械、電気通信機器などに部品として供給する素形材産業は、わが国ものづくりの優れた技術力と高い信頼性の基盤を支える重要なサポーティングインダストリーである。しかし、素形材産業は一般の人々からするとなかなか目に触れにくい産業であり、旧来型産業というイメージを持たれていることも事実であり、昨今では、素形材分野の研究者および研究室が減少してきているともいわれている。このような中、貴財団では昭和62年の設立以来、金属などの加工に係る優れた基礎技術の研究開発助成ならびに研究成果の普及啓発に取り組んでこられ、設立から30年の間に助成総額24億円以上を計上し、わが国ものづくり産業の発展に大いなる貢献を果たしてこられた。貴財団による取り組みに対し、改めて深く敬意を表する。」とあいさつをした。 古田一也 日本塑性加工学会会長が学会を代表して「日本の経済、金属加工あるいは金属加工機の産業も少しずつ薄日が見えるようになったが、次の数年間は不確定の時代だともいわれている。このような面からものづくりは非常に大切である。日本は資源の少ない国であるから、資源を輸入していかに付加価値の高いメイドインジャパンの製品をつくる、ものづくりをするかということが課せられている。そのものづくりの中でキーとなるのは設計だとお答えのある方もいらっしゃると思うが、やはり加工技術、生産技術が非常に大切であろうと確信している。天田財団はその重要性を鑑み、大学ならびに公的研究機関の研究者に対して、研究支援あるいは国際人材を育てる意味での支援、国際交流にも積極的に助成をされた。支援された件数は1,600件を超え、金額ベースで24億円。改めて感謝する次第である。天田財団は金属加工の研究者を育て、金属加工の技術振興において大いに貢献をされた。」と感謝の意を表した。 井水治博 日刊工業新聞社社長が、「天田財団の30周年にわたる業績は、多くの研究者らの研究推進、国際交流の支えとなり、またわが国の素形加工の発展に多大な貢献をされてきた。調べてみたところ、30年前、日刊工業新聞の1987年6月6日付に、今の天田財団である天田金属加工技術振興財団の発足、という記事が一面に掲載された。このとき、初代理事長の天田勇氏は、“素形加工機械に関する技術の向上を図り、わが国産業、経済の発展に寄与したい”という理念を語っていた。まさにこの30年間、この理念が脈々と受け継がれ、さらに創立20周年にはレーザプロセッシングの領域にまで助成の範囲を広げられるなど、事業の改革にも取り組まれて活発な研究支援活動が続けられてきたことに深く敬意を表したい。政治や産業界において人づくり改革が叫ばれる中、天田財団の支援活動は人材育成の面においても大きな功績を残されている。知性と経験、広い視野、そして人脈などを併せ持った研究者、あるいは技術者を金属加工業界に送り出してきた。そうした人材の活躍が日本の製造業の強さ、国際的な信用を高めているのは間違いないと思っている。」とあいさつをした。 磯部 任 アマダホールディングス社長が、「天田財団は塑性加工とレーザプロセッシングという分野に特定して30年にわたり助成活動を続けており、このような特定分野に特化して助成を長く続けているのは世界的にも類を見ない非常に貴重な財団だと伺っている。これまで運営に当たってこられた理事長はじめ財団の皆さまのご努力と、選考委員の先生方に感謝申し上げるとともに、改めて敬意を表する次第である。わが国の産業界、特にものづくりの現場は、ただ今大変大きな変革を迎えている。まさしく激変の環境といっても過言ではない。IoT、インダストリー4.0に代表される情報化、AI主導化の進展は加速の一途をたどっている。また、金属加工の分野でも、軽量化、さらには環境に優しい新素材の多様等々、われわれとしても解決すべき課題は山積しているという状況である。加えて、昨今の働き方改革、労働時間の短縮というものへの対応は労働力不足へ拍車をかけており、自動化、省人化設備への対応は企業にとって必須の取り組みであると捉えている。このような中で、アマダグループの取り組として、主力のレーザ加工機は1980年から業界に先駆けて市場に投入している。現在、世界で約1,000台のレーザ加工機を納入しているが、従来のCO₂レーザからここ3~4年でファイバーレーザへと大きくシフトしており、現在、全体1,000台の中の63%がファイバーレーザへという構成比にまでになった。このCO₂からレーザへの変換というものは、当初のわれわれの想定をはるかに上回っているという状況である。この背景には、技術革新がもたらした圧倒的な消費電力の削減、さらには光品質の向上によってこれまで切断が難しかった材料、さらには板厚、厚い物を加工できるようになったことが要因であり、加えてさまざまな革新によって、コストの削減が図られてきたということが大きな要因ではないかと認識している。機械メーカーとしてやるべきことは、飽くなき技術革新の追求であり、その技術革新を市場に受け入れられる商品価値につくり上げて、お客さまにお届けすることがこの金属加工業界の発展と、ひいては日本の確固たるものづくりの地位向上に伝わる貢献ではないかと考えている。」と述べた。 続いて、木内 学 東京大学名誉教授が「挑戦、そして限界突破への道」をテーマに記念講演が開かれたあと、平成29年度助成金目録贈呈式が行われた。その後、王 志剛 岐阜大学 副学長・教授が、平成26年度重点研究開発助成(塑性加工)成果報告「塑性加工における摩擦法則の確立」、門井浩太 大阪大学 接合科学研究所 准教授が、平成26年度一般研究開発女性(レーザプロセッシング)成果報告「レーザ溶機の凝固組織予測技術と凝固割れ発生防止法の開発」をそれぞれ講演とした。アマダソリューションセンターを見学したあと、懇親会が開かれた。宴もたけなわのころ、散会した。