平成30年 年頭所感 世耕弘成 経済産業大臣「日本が勝ち残り、世界をリードしていくためにはConnected Industriesの実現が鍵」

 

 平成30年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。
 今、世界の産業の在り方は大きく変わろうとしています。AIやIoT技術の登場により、新たな付加価値や製品・サービスが生まれ、企業の稼ぎ方も単なるモノ売りから、サービスと連動する形に重心が移行しています。このような中、ドイツや米国、中国もデジタル時代のイニシアティブを握るべく政策を打ち出し、世界中の企業が互いにしのぎを削っています。第4次産業革命時代に、日本が勝ち残り、世界をリードしていくためには、様々な産業、企業が「データ」を介してつながった、「Connected Industries」の実現が、重要な鍵となります。このコンセプトは、新たな産業を創出し、生産性を向上させるのみならず、少子高齢化、人手不足、環境・エネルギー制約など日本が抱える社会課題の解決につながるものです。このような産業の姿を目指し、経済産業省は次の5つの観点から、「Connected Industries」の実現に向けた施策を推し進めます。

「Connected Industries」の実現

 1つ目は、企業等のデータ共有・活用の促進です。まず、「自動走行・モビリティサービス」など重点5分野での取組に政策資源を集中投入します。また、横断的取組として、協調領域等におけるリアルデータの活用を支援する制度や、IoT等のデータ連携・利活用を抜本強化する税制措置を創設します。

 2つ目は、多様な人材育成です。AI・ビッグデータ等を用いる新たな教育サービスであるEdTechを活用した先進教育の実証に取り組みます。また、IT・データ分野でのスキル習得支援をはじめ、社会人等の学び直しのためのリカレント教育の推進により、第4次産業革命を支える人材への育成を強化します。

 3つ目は、「Connected Industries」を支える環境整備です。革新的な技術や新たなビジネスモデルの社会実装を促進するため、参加者や期間を限定して実証を行う、規制の「サンドボックス」制度を創設します。また、産業革新機構のリスクマネー供給機能の強化に取り組みます。

 4つ目は、データ連携の基盤となるサイバーセキュリティ強化です。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)によるサイバーセキュリティ人材育成の取組を強化します。また、電力などの重要インフラにおけるサイバーセキュリティ対策の強化、重要産業分野におけるサプライチェーン全体でのサイバーセキュリティ対策の実現に取り組みます。

 5つ目は、多様で柔軟な働き方の促進です。ITを活用したテレワークや副業・兼業の推進など、産業界とともに環境整備を図ってまいります。また、プレミアムフライデーを通じて、働き方改革、ライフスタイル改革に向けた機運の醸成に取り組みます。

 昨今の製造業の製品検査データ書き換えの不正事案については、安全性の検証が最優先課題です。当事者には早急な対応を求めます。品質保証体制の強化は、企業の競争力に直結します。さらに、サプライチェーンの存在などを考慮すれば、日本の産業界全体にも影響を及ぼしかねません。経済産業省としては、産業界に具体的なアクションを期待し、取組を後押ししていきます。

「生産性革命」の達成

 日本経済の成長を確固たるものとしていくため、2020年までの3年間を「生産性革命」の集中投資期間と位置づけ、総力を挙げて施策を実行します。

 1つ目は、設備投資や賃上げ、人材育成に積極的な企業への支援強化です。このような企業について法人税負担を25%程度まで引き下げ、加えてIoT投資にも取り組む企業は20%まで引き下げます。また、中小企業・小規模事業者の新たな設備投資を後押しするため、自治体の判断に基づく3年間固定資産税ゼロの新たな制度を創設します。併せて、ロボット導入等の革新的なものづくりやITツール導入など、1500億円規模の大胆な支援を行います。

 2つ目は、中小企業・小規模事業者の円滑な世代交代の実現です。早期・計画的な事業承継準備から承継後の経営革新への支援まで、M&Aの推進強化を含めたシームレスな支援を行います。また、今後10年間程度を事業承継の集中実施期間として、相続税の猶予制度や雇用要件等を見直し、抜本的な拡充を実現します。また、地域経済を牽引する企業に対し、地域未来投資促進法により集中的に支援し、地域経済を活性化してまいります。

 3つ目は、世界標準のイノベーションエコシステムづくりです。まず、今年度中に「Startup JAPAN(仮称)」を開始し、グローバルに勝てるベンチャー企業を選定して集中支援を行います。また、ベンチャー企業にとって負担となっている行政手続について、事業者が提出した情報について同じ内容を再び求めない「ワンスオンリー」化やデジタル化の実現に向けて取り組みます。

通商・対外経済

 昨年は、日EU・EPAの交渉妥結やTPP11の大筋合意など、日本が「自由貿易の旗手」として大きな存在感を示した1年でした。今年も、これら協定の早期署名・発効を目指すとともに、質の高いRCEP交渉などを通じて、自由で公正な経済圏を広げるべく取り組んでまいります。

 昨年12月のWTO閣僚会議では、電子商取引に関する有志国会合を日本から呼びかけ、米国やEUをはじめ全70ヵ国により、電子商取引に関する共同声明を発表しました。有志国会合という新しいやり方でWTOの議論を牽引していきます。

 さらに、WTO閣僚会議の機会に、初めての日米欧三極貿易大臣会合を開催し、第三国による市場歪曲的措置に対して、日米欧が連携して対応する共同声明を発表しました。今後、日米欧が連携し、市場歪曲的措置の是正のための取組を各国に働きかけてまいります。

 日米においては、昨年11月の日米首脳会談でも確認された、第三国の不公正な貿易慣行に対する通商法のエンフォースメントや、エネルギー、インフラなどの分野における日米協力に引き続き取り組んでまいります。

 ロシアとの経済協力を着実に進めてまいります。8項目の「協力プラン」の下で、100件の民間プロジェクトが動き出し、そのうち約4割で具体的なアクションが始まっています。引き続き、経済分野における協力関係の強化に取り組んでまいります。

 11月の日中首脳会談では、第三国において日中のビジネスを展開していくことが、両国のみならず対象国の発展にとって有益であることで一致しました。昨年12月の日中省エネルギー・環境総合フォーラムを踏まえ、今後、日中の民間企業間のビジネス協力を後押ししていきます。

 2025年国際博覧会の開催国決定投票まで、残すところ約10ヶ月となり、選挙戦が本格化しています。ライバルの国々は強敵ですが、オールジャパンの体制で大阪・関西への誘致活動に全力で取り組んでまいります。

エネルギー政策

 東日本大震災からもうすぐ7年が経ちます。日本は、震災と福島第一原発の事故を受け、2030年を目標とするエネルギー基本計画を策定し、施策を進めています。この間、世界では、シェール革命による原油価格の下落、再エネ技術の発展による価格下落など、イノベーションにより、エネルギー政策を取り巻く環境は大きく変化しています。

 日本でも、エネルギー分野でのイノベーションが生まれつつあります。省エネを徹底する観点から、複数事業者が連携した取組や、住宅・ビルのゼロ・エネルギー化等、IoTも活用してエネルギーマネジメントを進める取組が次々と誕生しています。引き続き、これらの取組を支援するとともに、再エネの導入拡大を目指し、コスト低減やメンテナンス効率化、系統制約の克服に向けた研究開発の支援や制度改善の取組を進めてまいります。

 原子力発電については、原子力規制委員会によって世界最高水準の新規制基準に適合すると認められたものについて、地元の理解を得ながら再稼動を進めてまいります。核燃料サイクルの推進を基本方針として堅持するとともに、最終処分の実現に向けた長い道のりの最初の第一歩として昨年7月に「科学的特性マップ」を公表したことを契機に、取組を一歩ずつ着実に進めてまいります。

 パリ協定を踏まえ、国際協調の下、経済成長と両立させながら、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガス排出削減を目指すこととしております。こうした大幅削減はこれまでの施策の延長では達成は困難です。世界中の知見を集約し、昨今のエネルギーや環境に関するトレンドを見極め、イノベーションや国際貢献でどのように世界をリードしていくか、検討を進めてまいります。

福島の復興

 福島の復興は、経済産業省の最重要課題です。帰還困難区域を除き、ほぼ全ての避難指示が解除されており、住民帰還や生活再建に向けて、引き続き福島イノベーション・コースト構想の推進、福島相双復興官民合同チームを通じた事業・なりわいの再建等に取り組むとともに、再エネ由来水素の製造・貯蔵等の実証など、新たな産業の創出に向けて取り組んでまいります。

 福島第一原発の廃炉・汚染水対策については、昨年9月に「中長期ロードマップ」を改訂しました。安全確保の最優先・リスク低減重視の姿勢を堅持しつつ、地域・社会とのコミュニケーションを一層強化しながら、安全かつ着実に取組を進めてまいります。

結言

 今年は、「戌」年。戌は茂という字に通じ、植物が盛んに成長し土地が豊かであることを表しています。「戌」年にふさわしく、日本経済がさらに成長し、国民生活を希望で包みこめるよう、経済産業省の職員一丸となって、職務に邁進してまいります。日本が世界の荒波を乗り越え、飛躍できる1年になるよう、願っております。

 皆様のより一層の御理解と御支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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