三菱マテリアルが提案する新時代の加工技術
人と社会と地球のために―――――。これは三菱マテリアルの企業理念だが、同社の中でも加工事業は〝成長促進事業〟のひとつであり、同社を牽引していくものとして位置付けられている。加速する自動化、省エネ化、IoT、AI等の流れの中で工具メーカーとしてあるべき姿、求められる切削工具を追求している同社は現在、デジタル活用をした切削シミュレーションなどを軸にしたソリューションを提供し、営業と開発、それぞれの部隊が手をとりあって新製品の開発に注力している。
今回、新時代の加工技術として切りくず処理を根本から変える低周波振動切削(以下LFV)対応工具シリーズについて取材した。
加工内容の多様化
小型自動旋盤を活用した精密小物部品加工の悩ましい課題のひとつといえば、〝切りくず〟だが、この切りくず処理を根本から変える技術のひとつに『LFV』技術(LFVはシチズン時計の登録商標)がある。
三菱マテリアルの『LFV対応工具シリーズ』は、穴あけエンドミルから端面、外径、キー溝、突っ切り工具までのフルツールが揃っており、同社では低周波振動切削に対応した工具について早い段階から着目して研究開発を進めていた。このほど、シチズンマシナリーのLFVに対応した機種と、同社の切削工具がどのようにマッチングしたのかを記載したカタログが出来上がったが、振動切削の特長と工具の上手な使い方に至るまで非常に分かりやすくまとめられており、これを読めばLFV技術と対応した工具シリーズについて簡単に理解出来る内容に仕上がっている。
自動盤加工の変貌について、営業本部の江波幸治さんは、「ここ数年で大胆な変革期に入りました。自動盤加工は、無人化、省力化、高生産へ向けたニーズの高まりを受け、周辺機器も含めて常に新しい加工用途に向けて様々なものを新製品として投入しており、工作機械を取り巻く環境も常に変化しています」と話す。新しい加工技術にも触れ、「自動車の電動化や様々なロボット化、装置化が進んだことでアクチュエーターをはじめとした高精度な部品が増加しました。こうした部品を細かく制御するには小物・高精度加工技術で加工した精密なワークが必要ですが、従来の切削方法だけでは対応しきれなくなり、工作機械側からは新機能の振動切削が提案されました」とLFV加工に対応した工具の必要性を述べた。
「工具メーカーとしてもこれらの対応が急務な状況にあります」と開発の経緯を話す江波さん。技術トレンドについても、難削かつ高機能材の増加を挙げ、アクチュエーターなどステンレス鋼、耐熱合金鋼、磁性材などが増加しているという。
ユーザーをはじめとした市場ニーズでは加工ワークの高品質維持と稼働率向上が挙げられるが、「小物・高精度加工市場では高速・高送りなどで対応する〝安易な加工条件アップ〟だけでは高生産性に結びつかない難しさもあります」とのことで、他にも安定加工による不良品の削減も求められている。
いかに設備を止めずに稼働率を上げるか――――が工具メーカーの腕の見せ所。技術トレンドとしての振動切削と切削工具の組み合わせによる生産性の向上に向け、三菱マテリアルは開発を進めた。
振動切削に求められる工具性能とは
振動切削加工に求められる工具の性能について、まずは振動切削に耐えられる工具剛性が必要になる。強靱な工具で難削材に対応し、ワークが高い面品位を保つためにも分断した切りくずの排出性が求められるが、通常の切削加工と切りくずの排出が異なる振動切削には加工に適した高い工具性能が必要になる。
江波さんによると、「振動切削の場合は刃先が被削材に接触したり離れたりしながら加工をします。切り込みと食いつきを繰り返しているのです。高品質な加工を狙うなら工具の耐チッピング性の向上や溶着の抑制は工具にとって欠かせない要素になります」と話した。
自動盤で加工されているワークの多くは古くから存在しておりかつては弱電部品がメインであったが、先ほどの説明の通り自動車関連部品をはじめとして用途が多岐に渡っているが、設備上の特長を踏まえた上での加工現場の課題について、同社では、①切りくずを起因とするワークへの影響、②不良の削減、③高生産性、を挙げている。
では三菱マテリアルのLFV加工向け工具の優位性はなにか―――を尋ねたところ、「インサート材種です。何度も被削材と接触を繰り返すような振動切削の際には欠けない材種が必要です。そしてホルダからの剛性アップのアプローチも重要です」と返ってきた。同社では、新時代の加工技術であるLFV加工向け工具を、インサート材種、ホルダ、穴開け工具(ソリッドドリル)からのアプローチで攻めており、さらなる生産性向上へ向けた挑戦をしている。
「LFVの効果は切りくず処理の改善にあるので、切り込みが多く、加工面がびびってしまうような箇所でも加工状態の改善が図れます」とメリットを話す江波さん。自動車部品は精度も厳しくなり試作が難しくなってきている昨今において、工具の形状や材種面ともに高いハードルをひとつひとつクリアしながら開発をしてきた『LFV対応工具シリーズ』の強みとは――――。