【対談】『つくるの先をつくる』日進工具社長 後藤弘治氏×『感性と技術で世界を虜にする』独立時計師 浅岡 肇氏

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写真左:日進工具社長 後藤氏 右:独立時計師(東京時計精密社長) 浅岡氏


 直径6ミリ以下の小径エンドミルに特化し、成長を続けている日進工具(社長=後藤弘治氏)。完全国内生産の同社は切削工具を製造する機械も自社開発のオリジナル。精度の高い製品を自動化された生産ライン製造されるエンドミルは10,000アイテム以上もありながら安定生産を誇り、日本の強みとされている電子部品製造や精密加工分野に貢献している。 

 この小さなエンドミルを活用しているユーザーの1人が、独立時計師の浅岡 肇氏(東京時計精密社長)だ。浅岡氏が製作する希少性の高い時計は、精度の高さと美しさを兼ね備えた芸術品として高い評価を博しており、世界中のセレブや時計マニアの心を掴んで離さない。お二人に製品をクリエイトするためのこだわりや、今後の展開などをざっくばらんに語って頂いた。 

精密加工の難しさ  

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浅岡氏のアトリエで見学する後藤氏

 後藤 時計はサイズが小さいので部品の配置など大変そうですね。浅岡さんは設計上、大切なポイントもSNSを活用し、惜しげもなく公開している点が大胆で感心しました。 
 浅岡 僕にとってSNSは腕の見せどころ。時計業界のプロの皆様やマニアックな方々に「スゴイ!」と驚いていただきたい(笑)。 
 後藤 腕時計は加工精度が厳しいのですが、特にどのあたりが難しいですか。 
 浅岡 テンプは外周が1ミクロンずれただけでNGです。時間もバランスも狂ってしまうので、現実としては機械加工のみだとどうしても合わせきれず最終的には細かい手作業が必要になります。 
 後藤 浅岡さんの時計設計はものすごく凝っている印象がありますが、組立工程なども工夫されているのですか。 

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「モジュール化した機構を機械式時計に取り入れた」と浅岡氏。左から、主輪列モジュール、キャリッジ、地板モジュール、トゥールビヨンブリッジ、裏輪列モジュール、文字盤

 

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新コンセプトのトゥールビヨン。1,200万円(税別)

 浅岡 このトゥールビヨン(左の写真)は、モジュールで歯車が載った状態で部品が外せるコンセプトのものです。組立の工程が従来の手法とは違い、非常に画期的だと思っています。従来の機械式時計の設計は300年ぐらい前から本質的に変わりがなく、ベースプレートの上に全部品が載っているものです。それは部品点数を減らすという意味では洗練されていますが、修理の如何に関わらず、全部を分解する必要がありました。クルマに例えれば、プラグの交換に際し、タイヤまで外す必要があるというような状況です。一般に時計以外の機械では受け持つ機能ごとにモジュール化された機構を組み合わせています。その当たり前を機械式時計にも取り入れてみたのです。ところで日進工具は国内外の有名時計メーカーに多く活用されていると思います。日本が誇る高級時計のグランドセイコーでもそうですが、高級品であればあるほど切削加工の比率が高いものです。工具側からのアプローチで時計にこんな加工をしてみたい、というものはありますか。 
 後藤 ハイジュエリーや高級時計に採用されているギヨシェ彫りは、200年以上も前に高級時計ブランドで有名な「ブレゲ」の創設者が考案した装飾技術ですが、これは手動旋盤により金属の表面に微細な線を描いていくものです。この芸術品とも呼べる加工を効率良く高クオリティを維持したまま安定して作れるお手伝いができたらいいな、と思っています。 
220910top3 浅岡 海外で実際にギヨシェ彫りの工程を拝見しましたが、非常に大変な作業だということが分かりました。加工途中にトイレに行きたくなって席を立ったら、どこまで加工したか忘れてしまうほどの世界です。集中して一気にやり切らないとできない加工なので、ミスを犯すことは御法度。ミスをしたら、ギヨシェ彫り手前工程まで遡ってやり直さなければならず、ギヨシェ彫りの担当者は想像を絶するプレッシャーだと思います。担当者の心理的負担を軽減する意味では機械で安定的に加工するのが理想ですが、面品位を保つためにはどうしても工具に依存しなければならず、工具の選定も非常に難しくなるでしょうね。 

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電子部品製造や精密加工分野に貢献している日進工具の製品


220910top5 後藤 微細工具となると、例えば100分の1ミリの工具は砥粒と同じように超硬の粉末が10粒ほどしか並んでいないので、工具先端の1粒が脱落しないよう研磨する技術が必要で、ここが難しい点です。精密加工は工作機械や工具だけでなく、環境にも左右されます。 いかに振動を出さない環境を作れるかが精密加工の肝を握るので、弊社開発センターでは、生活振動すら寄せ付けないよう免振装置に微小振動対策ダンパーを加えることで、微振動を減衰させるオールラウンド免震を採用し、実際に加工を行う工場内で活用して、精度の高い超硬小径エンドミルができるよう開発に注力しています。また、製造においては、ばらつきの無い製品供給に注力しています。例えば、1,000本のエンドミルを作るとしたら、1本目から1,000本目まで、同じ品質のものが安定的に出来る環境を整えています。 
 浅岡 小径工具は視認が難しいので、先ず刃先を50倍の顕微鏡で確認しますが、よくこんな微細工具を作るなあ、と本当に感心します。 
 後藤 微細工具は繊細ですし、ケースから工具を取り出す時に手を怪我すると良くないので、ケースもスライドして工具を抜くように工夫をしています。 

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