日本最大の金型メーカー キヤノンモールド 斎藤社長に聞く ~多品種大量化への道~
チャレンジ精神が生んだ高付加価値金型とは ~既存の成形機で実現可能な2色成形金型も登場~
同社による高付加価値金型を示す技術に〝型内組立〟がある。型内組立とは、その名の通り、金型内で成形、組立てを行うことを指すのだが、金型技術で組立て工程省力化を図ることが強みである。同社が取り組む型内組立のメリットは、①仕掛品を削減する、②金型の数とスペースを削減する、③完成品ができるまでのリードタイムを削減する、④エラストマなどの難組立部品を容易に組み立てる――ことだ。これらを実現するシステムのひとつに、〝キューブシステム〟がある。これは、金型内で複数の部品の成型と組立を繰り返し、毎ショット金型から組立品が出てくるというもの。なお、この技術については、型技術協会、金型技術振興財団の「型技術ワークショップ2022」に論文を発表しており、昨年(2023年6月)、奨励賞を受賞している。
さらに昨年、金型業界で注目を浴びた技術が、汎用成形機で2色成形を実現するというものだ。これは既存の成形機に、ロータリー機構の金型と内製小型射出装置(Box Injector)を搭載すれば2色成形機と同じ成形品が完成するというもので、繰り返し安定性が良好な電動駆動のプリプラ方式が採用されている。
従来の型内組立は直線運動が主流だった。そこを回転運動にすることで生産性が上がることに目を付けた同社。内製小型射出装置を開発し、これを金型に直付けすることで、従来2色成形機でしかできなかったものが、この金型と既存の成形機だけで完成する。これにより、金型を単体売りからシステム売りに発展させることができ、製造現場では高効率が見込まれることはいうまでもないだろう。
人材育成にも注力 ~キヤノンの名匠を中心に技能伝承の場も~
人材育成にも注力している同社には、『名匠塾』がある。主な講師は、キヤノンの名匠制度で認定された「名匠」で、現在、5名の名匠がキヤノンモールドに在籍しており、うち2名(植武名匠:ジグ研削盤、照井名匠:研削盤)は、国が定める「現代の名工」に選ばれ、「黄綬褒章」も受章している。
名匠塾塾長を務める植武名匠は、「名匠塾には新入社員教育と技能者教育の2つのミッションがある。新入社員教育に関しては単なる作業法だけでなく、礼儀作法、心構えまでを含み、心と体の教育をしている。」と説明した。また、技能については可視化することで人材のモチベーションアップを狙い、具体的には、①知識、②技能、③品質、④能率、⑤技能検定――の5段階で評価し、年初に面談をしたのち、進捗管理をしていくという充実した技能育成体制を有している。
取材の最後に斎藤社長は「われわれはお客さまに信頼を届けるために、精度や耐久性を意識した金型づくりをしている。逆に、精度や耐久性が重視されない金型があるとすれば、そういった金型づくりはできないのが弱み。キヤノンモールドの金型はいいね、キヤノンモールドの金型じゃなきゃ駄目だね、と言ってくれることを期待しているんです。」と笑った。