トップ戦略と現場力のダブル公開! ~三井精機工業「工場見学会2025」 ~那須社長に聞く~  

 

 

 三井精機工業(社長=那須要一郞氏 本社工場:埼玉県比企郡川島町八幡)が、11月12日(水)~13日(木)の両日、本社工場で完全予約制の「工場見学会2025」を開いた。普段は見ることのできない機械の作り込みを来場者に見せることで、〝精度へのこだわり〟と〝ユーザーに寄り添う姿勢〟を訴求した。

 本年6月27日 付けで社長に就任した那須社長に意気込みや経営方針などについてお話しを伺うとともに工場見学会をレポートする。

 ― 本年6 月に副社長を経て社長に就任されました。心がけていることや心境の変化を教えてください。
 那須 弊社は連結で600人を超える企業であり、従業員ひとり一人とそのご家族の生活を守る責任を負っています。だからこそ、その使命の重さを強く感じています。お陰様で弊社は3年後に100周年を迎えますが、従業員が安心して働き、暮らしていける企業であり続けるためにも、これからも永続的な成長を追求していかなければならず、副社長時代と比べても、抱く緊張感と責任感の重みは、まったく違います。
 ― 那須社長は銀行出身ということもあり景気変動を読んだ戦略的な判断等にも強い印象を受けます。
 那須 銀行時代は企業の財務や資金の流れは読めても、技術力や将来の伸びしろまでは数字に表れませんので、限界がありました。現場の技術力、モノを売る力、市場を読み解く力を磨き続けることが、私の責務だと考えていますので、日々学びを重ねています。弊社は一言で言えばニッチな領域を担う企業です。標準品を大量生産するのではなく、お客様のニーズに合わせてオーダーを受け、求められる精度と剛性を担保した機械を作り上げていくのが三井精機の商売における本質です。技術開発力こそ私たちの最大の財産であり、高精度・高剛性という強みをさらに磨き上げていく所存です。
 ― 戦略的な開発となるといろいろ考えることもあると思います。
 那須 一方で、開発に注力するあまり、資金の使い方が甘くなる場面があります。お客様が本当に求めていないにもかかわらず、ものづくりの魅力に引っ張られて、つい自己満足の開発に走ってしまうというケースも過去にありました。その無駄を見直して贅肉にも似た不要な部分をそぎ落としていけば、さらに強く筋肉質な企業体質になると感じています。
 ― 構造改革を実行中といったところでしょうか。
 那須 前社長の川上は現在、会長として会社を支えています。川上が社長を務めた3年間は、構造改革を掲げ、無駄をそぎ落とす変革期でした。私はその補佐役として改革に並走してきたので、今の体制もそのまま平行移動をした感覚で、基本的なスタンスは変わっていません。川上はこの業界に40年以上従事していて、工作機械業界の酸いも甘いも知り尽くしており、大きな安心感を与えてくれる心強い存在です。
 ― ところで、現在、世界的な成長の鈍化や地政学リスク、原材料価格の変動などで景気や為替が読みにくい傾向がありますが、どうお考えですか。
 那須 一定の予想は立てられますが、それだけに頼って動くのは危険だと考えています。たとえ“こちらの方向に進む確率が高い”と思っても、世の中は不確実で、何が起こるか分かりません。だからこそ経営判断は、常に“どんな可能性もある”という前提で動くべきだと考えています。経営の舵取りの大部分、たとえば6割程度は見通しに基づいて動かす必要はあるかもしれません。しかし、過度に想定通りに振りすぎるとリスクが高まります。金融市場の世界でも、皆が同じ方向に行こうとする時、必ず逆の動きをする人がいる。ビジネスでも同じで、多くの人が“こっちが正解”と思っているときに、逆の可能性を想定できなければ勝つことが難しいこともある。会社を守ることは、従業員を守ることにつながります。だからこそ、1点読みではなく、常にリスクを見据えた柔軟な経営が必要だと考えています。
 

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