トップ戦略と現場力のダブル公開! ~三井精機工業「工場見学会2025」 ~那須社長に聞く~
ユーザーの競争力を強化する機械作りを拝見
同社の工場見学会といえば、従来1月~2月に開催することが多かったが、今回は11月の開催となった。この理由を那須社長に尋ねると、「冬は積雪の影響により交通事情も悪化しやすく遠方のお客様は来場が難しい場合があるので11月の開催にした。」とのこと。今後もこの時期に開催する予定だという。
今回の来場者は完全予約制。来場者は機械の作り込みをじっくり見学でき、設備を本気で見極めようとする真剣さが伝わってくる。担当者も一つひとつ丁寧に説明しているのが印象的だ。機械の仕様はもちろん、どこに優位性があるのかまで担当者が個別にしっかり説明できるのは、プライベートショーならではの魅力だが、今回は、この部分をさらに強化させた印象を受けた。
工場内に入ると、きさげ面がむき出しのジグ中ぐり盤「J6CN」が佇んでいた。きさげ面はまさに工作機械の〝精度の根幹〟を支える部分。図面には表れない、人間の指先の感覚が生み出すものだ。
次は、新製品の小型雌ねじ研削盤「GSS60i」を拝見。このマシンは非常にコンパクト。オプションにて自動で溝位置の確認が可能になる。なお、「ナット加工での自動位相合わせは今後開発予定。」とのこと。
注目したいのは、こちらもオプションで〝ハイリードナットの加工〟ができること。
砥石を傾けておいて、リードに併せて研削する加工法なのだが、ハイリードでは雄ねじ1回転でナットが大きく移動ができるので〝高速送り〟が実現するのである。その分、通常よりも加工精度がシビアになり、負荷も高くなるので、高度な技術が必要なのだ。同社ではハイリードナット加工の鍵を握る〝ハイリードスピンドル〟を新開発しており、不良が許されない領域に貢献するマシンとして現在、高い信頼を集めている。
同社では、ユーザーニーズに沿って機械を作り込んでいくのだが、今回の見学会では、「APC(自動パレット交換装置)が不要。」という要望に応えた機械を作っていた。「他メーカーではAPCが付いているものは外すことができず、対応できない。」と断られ、相談に来られたので対応したという。ちなみにこのマシンは、航空機産業向けだと聞いた。
続いては、工具が240本を活用できるATC(自動工具交換装置)付きの機械を拝見。「240本も工具を使うユーザーってどんな会社ですか?」と尋ねたところ、「秘密です。」とのこと。工具をたくさん使うので複雑な加工に対応するための機械を発注したのだろうと想像する筆者。この機械の特殊な点は、基本的には4軸だが、2枚パレットがあり、片方のパレットにNCのロータリーテーブルを立てて載せ、片方が5軸仕様にできている点である。この場合、通常はAPCを活用できないとのことだが、ロータリーテーブルを載せたまま、APCが実行できる特殊仕様だ。通常の4軸の横形としても使え、5軸加工もできるという便利な仕様にも対応している。
ガスタービンの部品を加工する機械を拝見。パレットが800□の5軸の機械だ。ガスタービンの羽は耐熱合金でできているので、剛性が必要。このユーザーは、リピーターとのこと。
続いてレアものの大型の「HU100(クイル仕様)」を拝見。クイルを前後にストロークさせる様子を眺めた。クイル仕様はクイルを伸ばせる分、短い工具で安定した加工が可能になるというメリットがある。
他にも同社の子会社であるサンテックがオーバーホール/レトロフィットの紹介をしていた。三井精機工業のように精度基盤が強いメーカーでは、オーバーホールのメリットは大きい。
展示されていたのは 1981年製の機械。きさげをし直し、全てのねじを交換。もともとはマニュアル機だったものをNC化しており、精度の復活と生産性、資産価値の向上に貢献していた。
顧客の未来の競争力を支えるために、1台1台の工作機械に顧客の思いと技術のすべてを刻み込む三井精機工業は、今日も世界の製造現場で信頼を勝ち取っている――――。


