三菱マテリアルの取り組み 超硬スクラップが〝鉱物資源〟に ~タングステン供給リスク時代に挑む製造業の資源循環~
安定供給の鍵を握る超硬スクラップとその価値

このように超硬リサイクルにも様々な概念や手法が存在するのだが、同社が保有する精錬技術によるリサイクルの強みは鉱山由来のピュアなタングステンと同等レベルまで純度を高めている点だ。そのため、コストもかかり高度な技術が必要だが、高品質な超硬合金の原料として再利用できることは大きな強みと魅力である。
また、国内で発生する超硬スクラップは全体の約3割程度とされており、国内循環を進めるうえでの課題について、長谷川室長は「国内循環の重要性が十分に伝わっていない。有価物として扱われてきた一方で、産業廃棄物として処理されているものもある」と指摘する。
そのため、同社では国内で発生する超硬スクラップを確実に回収し、資源循環につなげる取り組みの重要性を発信している。
研削加工で発生するスラッジも、タングステンを含む有用なリサイクル資源となる。同社では、こうしたスラッジについても回収対象としているが、珪藻土やシリコンなどの異物が多く含まれる場合、リサイクルが難しくなる。そのため、「使用する材料や加工工程の段階から、リサイクルしやすい環境を整えることが重要になる」と長谷川室長。

今後10年、タングステンを巡る国際競争がどのように変化するかは注目される。現在、世界では新たなタングステン鉱山の開発も進みつつあり、将来的には供給不足が緩和される可能性もある。
しかし、資源を海外に依存するリスクがなくなるわけではない。安定供給を実現するためには、新たな鉱山開発とともに、使用済み資源を再び活用する循環型サプライチェーンの構築が重要となっている。
同社は、新中期経営戦略(2026~2028年)で「資源循環ビジネスで未来を創る企業へ」を掲げ、二次原料製錬の拡大やE-Scrap(電子機器の廃基盤)処理量の倍増、さらにはタングステンリサイクル率100%を目標に据えている。加えて、日本新金属とH.C. Starckに総額100億円規模の投資を進め、タングステンの生産・リサイクル能力を強化することで、グローバル市場における競争力の向上を図る。
タングステンを取り巻く環境が大きく変化するなか、資源を「購入する」時代から、「循環させて確保する」時代へと、資源循環は環境対応にとどまらず、安定供給と品質を支える経営戦略そのものへと進化している。
鉱山開発から製錬、リサイクル、そして超硬工具の製造までを一貫して手掛ける三菱マテリアルの強みは、こうした時代だからこそ真価を発揮する。原料調達から製品供給までを自社グループで支える体制は、高品質な超硬工具の安定供給を可能にし、顧客の生産活動を力強く支える競争優位性につながっている。
超硬スクラップは、単なる有価スクラップではない。日本の製造業を支える重要資源であり、その循環を確立することは、資源制約時代における産業競争力の強化そのものと言えるだろう。
切削工具は、これからも製造現場を支える不可欠な存在であり続ける。その価値を支えるタングステンをいかに循環させ、次世代へつないでいくのか――。三菱マテリアルが進める超硬リサイクルは、資源循環を新たな競争力へと転換する挑戦であり、日本の加工技術と産業基盤を支える重要な一歩として、今後ますます存在感を高めていくだろう。
〈三菱マテリアル 超硬工具リサイクルシステム〉
■回収対象品(メーカー不問)
●超硬インサート(バラ用/ケース入り *ダイヤ・cBN 付きインサート回収可)、超硬ソリッドドリル・エンドミル、サーメット、ハイスソリッドドリル、エンドミル(バラ、ケース入混在可)(*サーメット・ハイス製品のみの回収は不可)およびコーティング品
●ロウ付け製品(バイト・ドリル・エンドミル
●ヘッド交換式エンドミル(ヘッドのみ)
●超硬防振ボーリングバー
●耐摩耗工具製品
*ロウ付け製品・耐摩耗工具は都度相談
回収を希望する場合は、原料・リサイクル部(TEL:03-5252-3666)または最寄りの支店・営業所へ申し込むこと。手続き完了後、専用の「リサイクル回収BOX」が無償で送付されるので、超硬スクラップを分別回収できる。


