独立時計師 浅岡 肇氏に聞く ~碌々産業の「MEGA-SSS400」を新たに導入~

 

高価なものにはそれなりの理由がある ~スイス人と同じ生みの苦しみを味わう~

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2021年2月に新たに設置した事務所内

 

 ―浅岡さんのつくる高級時計は1本1,000万円以上しますが、それでも売れます。世界的にも王族などのセレブが顧客に名を連ねますが、なぜ、売れると思いますか?
 浅岡
 スイス人の頑張りがあったからだと思っています。スイス人が下地をつくり、市場を形成してくださったからこそ、その中で僕はプレイヤーとして存在できているのです。その点はスイス人に感謝しているし、彼らに対するリスペクトもあります。ですが、僕はそこにタダ乗りをしたらいけないと思っています。それをしないために、時計作りのために最初に実行したことは、時計を歯車1枚から製作するということでした。スイス人と同じ生みの苦しみを味わうためです。
 ―生みの苦しみは浅岡さんのSNSを拝見しても理解できます。
 浅岡
 スイス人のお陰で下地が作れたからこそ、現在、クロノトウキョウも売れるようになったと感じています。クロノトウキョウは僕がデザイン・設計を担当しましたが、時計マニアの僕ならではのデザインと設計が盛り込まれています。ざっくり言うと、〝ガワ〟のみの作り込みですが、その分、機械式腕時計の入門編としても手に届く価格帯となっています。これが部品のひとつひとつを造り込むとなると、価格は変わってきます。高価なものはそれだけの理由があるのです。単に時計用のマシンで削り出しのケースをつけるだけであれば、そこそこ知識のある方であれば、簡単にできる。時計の部品は緻密で多岐にわたりますが、それらをひとつひとつ丁寧につくりあげ、作家が思い描いた時計に組み込むことで、その作家でしか成し遂げられない価値が生まれるのだと思います。
 ―今年の2月にアトリエの他にも事務所を新しく設置しましたがメンテ部隊も揃え、どんどん拡張していますね。
 浅岡
 今はメンテの専任は1人ですが、ゆくゆくは増やす予定です。
 ―独立時計師を育てる意味合いも持っていますか。
 浅岡
 持っています。現在、専任のメンテ担当者以外に、時計学校の学生アルバイトを活用しています。こうした中から今後、人材を育てていきたいと考えています。
 

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「日本には優秀なオペレータが多く存在している」と浅岡氏

―独立時計師となると、人材育成も相当年数がかかると思いますがその点のお考えは。
 浅岡
 ここが悩ましいところで、マシニングのオペレーションが一番の課題です。独立時計師は、朝から晩まで生産しているわけではないので、専任のオペレータを入れても効率が悪くなる。時計の修理、組み立てもできて、なおかつマシニングのオペレータもできる人材が必要なのですが、そういう人材はなかなか見当たりません。マシニングのオペレータを引っ張ってきて時計のスキルをここで教えるか、あるいは時計のスキルのある人にマシニングのオペレータを教えるかということになってしまう。また、時計の部品はとても小さいので、組み立ての際に部品を壊すことがよくあります。そんなとき、時計師自身がマシニングのオペレーションもできれば、そのリカバリを自らできますし、すると精神的な負担も減ります。したがって、時計師とマシニングのオペレータの両刀使いは理想的なのです。
 ―人材募集も悩ましいところですね。
 浅岡
 たまにTwitterなどを見ていると、ああ、引き抜きたいなあ、と感じさせてくれる素晴らしい技能をお持ちの方がいらっしゃいます。日本がすごいのは、優秀なオペレータがいっぱいいるということでしょうね。
 ―現在、国内でアトリエを含み拠点は3カ所ありますが、海外に事務所を設置する計画はありますか。
 浅岡
 販売を担当している別会社がシンガポールにありますが、会社としては販社部隊と一つのほうが良いと考えているので、いずれ、海外に事務所を構える可能性はあります。
 ―ありがとうございました。

(碌々産業 海藤社長のコメントは次のページ)

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