【小物高精度加工は次の時代へ】 三菱マテリアル&シチズンマシナリー LFV(低周波振動切削)技術が切りくずトラブルをシャットアウト!

 

市場を掴み、お客様のトータルコスト削減を目指すための切削工具とは

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市場動向に伴う加工の課題について説明する三菱マテリアル 江波さん

 現在、自動盤加工のトレンドとして、アクチュエータ等のステンレス鋼・耐熱合金加工、磁性材の増加といった難削材および高機能材の増加が挙げられる。これらを高能率に精度良く加工し、経済効果を高めるLFV技術の切りくず処理に目を付けた三菱マテリアル。

 生産性向上やトータルコスト低減の観点から、近年市場からも高い評価を得ているLFV技術だが、これに対して切削工具メーカーとしての対応が気になるところだ。どれだけ高生産性とともに不良品を出さずして同じ品質のものを作り続けていくか――という点で切削工具の役目は大きい。

 三菱マテリアル 営業本部技術営業部ツーリングマネジメント室 室長の江波幸治さんは、「短時間で高精度なものを安定品質にて生産し続けることは、自動盤加工において儲かるか否かの分岐点になります。高品質維持とともに稼働率向上を求めるのは当然のことですが、これは決して高速・高送りなどの〝安易な加工条件アップ〟で実現するものではなく、不良品の削減に向けて、要因となり得る各種トラブルも排除していかなくてはなりません。」と力を込める。

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LFV対応工具シリーズパンフレット

 更に今後の加工動向に関して江波さんは、市場動向に伴う加工の課題について、「例えば電気を動力源としたEV車の部品は、生産数も多いうえ、複雑形状なのですが、自動車メーカーからサプライヤーへの要求事項は大変厳しいものがあり、安全に車を動かすためにも高い加工精度が求められます。従来からある弱電部品もそうですが、複雑形状ゆえ工程も多くなるといった様々な課題が出ています。実際にお客様のワークを拝見しましたが、切りくず離れが悪い材料では加工精度が安定しないので、損失が大きくなってしまう悩みを抱えていました。」と話したあと、「今後、市場ニーズに適した技術トレンドを掴んで開発していかなければならないと思っています。LFV技術と切削工具の組み合わせで高生産性が実現しますので、切削工具メーカーとしても、このメリットを具体的な製品とアプリケーションとを合わせて示していくのも使命だと感じています。」と意気込みを表した。

 三菱マテリアルでは、シチズンマシナリーのLFV対応マシンを導入し、様々な切削工具の開発を行っている。同社では、LFV加工の技術的な観点に特化したカタログも発刊し、加工現場の生産性向上に役立てる取り組みをしている。

LFV技術を搭載したマシンの能力を最大限に活かす工具群

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進化した三菱独自のクーラント穴形状を持つ、小径深穴加工用ドリル「DVASミニサイズ」

 

 LFV技術を搭載したマシンと組み合わせたことによる加工の優位性を示すため、三菱マテリアルでは、昨年、小径深穴加工用ドリル『DVASミニサイズ』を市場投入している。同社岐阜製作所 ドリル・超高圧工具開発部工具開発課の佐藤晃さんは、「より深いところを加工したいというお客様の強い要望もあり、これまでに類を見ない40D、50Dを商品化しました。」と開発の背景を話す。

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「DVASミニサイズはクーラントに新技術を搭載している」と三菱マテリアル 佐藤さん

 より細長い工具形状になるので、心配なのは工具が突発で折れてしまうことだ。この悪さの原因は切りくず処理の問題である。さらに細長いものは、穴位置精度が悪くなる可能性もある。佐藤さんは、「新製品DVASは細長いドリルでも安定生産、安定操業に貢献できることを目指したものになります。」と自信を見せた。

 小径深穴ドリルが活用される環境についても、「マシニングセンタの場合は高い回転数で切削速度を上げられるという利点があります。その一方で小型旋盤や自動盤のように止まっている工具に対して被削材が回転する場合、マシニングセンタに比べると低い回転数になってしまう。こうしたことから双方のメリットを生かせるような汎用性が高い切削工具を求めると、切削速度は低いところから速いところまで、送りも幅広い条件をカバーしなければなりません。」と見方を示し、新製品『DVASミニサイズ』は、特長的な点のひとつに〝クーラントに新技術を搭載〟していることを挙げた。

 マシニングセンタは水溶性クーラントが使われることが多いが自動盤は油性クーラントが多い。佐藤さんは、「特に小径ドリルになればなるほど内部給油でクーラントを吐出するときに高圧クーラントを搭載していないとクーラントがなかなか出てこず、安定切削が困難になります。工具側としては、マシニングセンタでも自動盤でも双方の機械をカバーしつつ、クーラント設備の制約を緩和するといった点や切りくず処理についても求められるので、クーラント穴の断面積を従来よりも大きなものを採用しました。」と工具設計について説明をした。

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切削負荷を低減させる新XRシンニング

 このクーラント穴の形状は、特に小径工具だと単純に丸形で大きくしてしまうと工具剛性が保てなくなる。できる限り工具剛性を落とさないクーラント穴の形状にしなければならない。そこで同社では、小径ドリルに最適化した略三角形のクーラント穴に設計している。まるできれいなおにぎりのような形だ。これを同社では、〝TRI-Cooling(トライクーリング)〟と呼んでおり、クーラント吐出量が従来比の200%以上も向上させ、切りくずの排出、切れ刃の冷却と潤滑が格段に向上したとともに、寿命安定性にも大きく寄与している。また、刃先デザインについても、ストレートな主切れ刃とシンニング切れ刃を滑らかな円弧で連続的に繋ぐデザインにし、耐欠損性を向上させているうえ、すくい面にはランド部を設けて耐クレータ性、切りくず分断性も格段にアップした。

 また、切りくずの流れが整えられ、スムーズな切りくずのカールを実現することで切削負荷を低減させた〝新XRシンニング〟設計にも注目したい。従来品よりも25%の切削抵抗の低減に成功している。

欲張り工具に重要な鍵を握るコーティングからのアプローチ

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「低送りの加工は表面性状の改善が課題」と三菱マテリアル 宮下さん

 このように、低速から高速まで幅広くカバーできる新製品の『DVASミニサイズ』は、一石二鳥の欲張り工具として登場したが、工具要素の重要な鍵を握るものに〝コーティング〟がある。同社では6年前からスモールツール専用材種の開発に注力してきており、近年ではいち早くLFV対応インサート材種であるMS9025を発売してきたが、本年6月に新たに登場したPVD材種『MS7025』は、自動盤加工が最近のメイントレンドとして狙いを定めた製品だ。

 三菱マテリアル筑波製作所 材料開発部コーティング開発課の宮下 大さんは、開発の背景について、「LFV技術が搭載されたマシンは低速低送りの仕上げ加工がキモを握りますが、低送りの加工は表面性状の改善が課題となっていました。」と話す。

 今回、マルテンサイト系ステンレスの低送り加工事例を拝見したが、競合他社品では白い筋状の傷が加工面にいくつか存在していた。つまり、表面性状が良くないのだ。このスジは刃先への溶着付着が原因で発生するもので、特に低送り加工で問題になっていた。

これを解決するため、同社では、今回『MS7025』を開発したのだが、宮下さんは、「耐溶着性に優れる高潤滑のアルミクロムナイトライドと、耐摩耗性に優れる高硬度のアルミチタンナイトライドを独自の技術でナノ積層することで、耐溶着性と耐摩耗性を両立したまま大幅に向上することができました。」と大きなポイントを述べた。

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刃先断面SEM画像

 

 刃先断面SEM画像を見せて貰ったが、従来品には、刃先のダレ(外周研削時の刃先脱落)や被膜のチッピングが見られたが、『MS7025』にはシャープエッジを維持し、刃先のつきまわりも良好だった。当然、LFV加工においても仕上げ面に優れており、加工精度向上や不良損失削減へも貢献できる性能である事が確認できた。

 現在、同社ではスモールツール専用材種として3材種がラインナップされている。軟鉄、炭素鋼向けの『MS6015』、今回新発売した、合金鋼やステンレスの低送り条件に向いている『MS7025』、ステンレスや難削材、インコネル等の難削材に向いている『MS9025』だ。

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MS7025の特長​​​​​​

 

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