「世界切削工具会議(WCTC)2024」が大阪で開催 ~切削工具業界からみた各国製造業の現状と展望~

 

「切削工具業界には課題を克服する力を秘めている」
Dr.Federico Costa欧州切削工具協会(ECTA)会長

 欧州における経済状況は、2023年を振り返るとECTA加盟国全てが順調なスタートを切ったが2023年下半期は低調だった。世界の工業生産は全般的に低調な伸び率だった。全体として欧州の業界は国境を越えた切削工具の納品を若干増やすことができた。重要な北米市場との取引は特に好調だった。対照的に中国への納入は再び減少した。現在は特にインド市場に注目をしている。

 インド市場は全体ベースではまだ比較的小さい市場だが、数年非常によい成長機会が見えている。EU域内の出荷は僅かな伸びに留まった。成長率は低いとはいえ、欧州製の工具にとって欧州国内市場は2023年においても最大市場であることは変わりない。EUからの工具の60%は、今もEU内で加工され続けている。

 他国ごとに見ていくと、イタリアの工具の需要は好調だ。2023年、イタリアの工具および工具保持具の市場は3年連続で拡大したが、成長率は緩やかで2022年よりはるかに低成長だった。2023年に過去最高を記録したイタリアの工作機械産業の貢献が顕著だった。イタリアの自動車生産も力強い伸びを示した。

 ドイツは、機械工学分野の工具需要が良好な水準で推移した。特に重要な自動車産業からの需要が増加した。

 スペインは2023年上半期、非常に好調なマクロ経済パフォーマンスだったが、下半期は引く継ぐことはできなかった。機械工学および自動車産業の主要顧客は全体として大幅な増産に成功した。機械工学部門はインフラ整備や採掘プロジェクトはなかなか起動に乗らず、多くの工作機械を必要としている。

 スイスについては、2023年上半期は好調維持ができなかった。スイスの金属・電気産業通年で僅かな成長にとどまった。そのため、工具需要の伸びは限定的だった。スイスで重要な産業である時計産業は、下期に特別な刺激となることはなかった。一方、医療技術は継続して安定している。全体としてスイスは非常に好調であった前年に比べ微増で終わった。

 フランスでは、機械工学セクターとの取引は低調だったが、フランスの重要な航空機産業の成長は2023年も続いた。フランスの自動車産業も生産台数が大幅に増えた。

 イギリスは、イギリス諸島では経済が引き続き低迷している。自動車生産台数だけは僅かに増えた。今年導入された特別償却規則は投資と機械需要を刺激する可能性がある。しかし、イギリス企業には長期的な戦略と計画の確実性が欠けている。

 2024年の見通しについては、イタリアの2024年の見通しは前半ほぼマイナスであるが下半期は成長し始めると予想されている。これはトランジション5.0の政府の取り組みのお陰で成長すると考えられる。2024年の主な不安要因および不確実性要因は国際政治情勢だ。

 ドイツについて。工具メーカー2024年前半、横ばい傾向であると見ている。改善が見込まれるのは早くとも24年の後半以降と考えている。

フランスでは機械工具業界が若干減少すると予想されているが、対照的に航空業界の成長は続くと見られる。また、自動車業界への工具販売も増加する可能性がある。

 スイスでは2024年の見通しはあまり明るくはない。既に2023年後半から始まった受注の減少があるが、これは2024年秋頃に底を打つと予想される。主なリスクは依然として通過、スイスフランである。特に先行き不透明感があるとスイスフラン高が高まり投資意欲を減退させる。

 イギリスは、年初に導入された特別償却規則が投資と機械需要を刺激する可能性があるが、長期的な戦略や計画の確実性が足りていない。

 全般を通して2024年については慎重に見ている。少なくとも最も重要な販売国のGDP予測によると2024年末にかけて若干状況が改善すると見ている。そして2025年に再び大きな成長が記録されると希望を感じている。

 現在におけるヨーロッパの課題だが、経済・政治環境はかつてないほど厳しいものになっている。その理由は地政学的な不確実要素が多いことだ。欧州企業は大きな課題に直面している。世界の様々な顧客市場や地域における厳しい状況に加え、経済政策上の大きな負担にも直面している。ブリュッセルから洪水のように押し寄せる大量の規制によって欧州企業の多くが溺れてしまうのではないかと懸念している。

 企業にとってコンプライアンスコストと文書化要件は膨大で、例えばドイツではVDMA(ドイツ機械工業連盟)が調査で分析したところ、既に研究会は投資のレベルまで増えている。私たちは規制が国際競争において欧州経済の足を引っ張らないよう注意しなければならない。

 続いて選挙については、6月初旬に欧州会議選挙がある。対象はEU加盟27カ国だ。私たちが心配しているのは欧州における右派、ポピュリズムの高まりで、輸出産業にとっては致命的になりかねない。孤立主義やナショナリズムではなく、自由貿易と開かれた市場が必要だ。加えて、労働人口の高齢化が進んでいる。次世代が成長するよりも速い速度で高齢化が進んでいるので、私は会長職のモットーとして若いプロフェッショナルを採用することの重要性を強調したい。私たちが将来、機械加工、生産技術の進歩によって重要な役割を果たしたいと願うのであれば、優れた訓練を受けた優秀な若者が必要だが、残念ながら人口動態は私たちにとって不利な状況である。それでも私たちは砂に顔を埋めることなく、日々新たな課題に立ち向かわなければならない。

 私たちは創造的なアイデアを持つ魅力的な雇用主であることを示さなければならないうえ、魅力的な業界でなければならない。私たちは人類が直面する大きな課題に対する技術的解決策を提供できる。力を合わせて頑張りたい。切削工具業界にはこれらの課題を克服する自信と革新的な強さがあると信じている。

 

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