強固なBCPと世界供給網で挑む! 切削工具の安定供給がイスカルの強み イスカルジャパン 代表 岡田一成氏に聞く
「いくらの工具を買ったか」から「何を生み出したか」へ ~今こそ最小資源で最大効果を狙う~
― 事業基盤への投資を積極的に進めている背景には、これからの市場成長に対する確かな見通しもあるのではないかと思います。世界の製造業が大きく変化するなか、今後どのような市場に成長機会を見いだしているのでしょうか。
岡田 イスカルジャパンは日本法人ですので、国内市場についてお話しします。これまで日本の産業を支えてきた中心的な分野の一つが自動車です。しかし、ここ10年ほどは「EVシフト」が大きなテーマとなり、私たちもコロナ禍前から、EVへの移行が本格化することを想定してきました。実際、社内でも「EVによって自動車産業が大きく変わる」という危機感を持ち、EV化に対応した営業戦略や製品、顧客へのアプローチについて検討を重ね、社内勉強会や方向性を共有するための説明会も行ってきました。ところが、振り返ってみると、当初想定していたほどEVへのシフトが進んだとは感じていません。国内だけでなく、北米や中国を含めても、自動車市場全体が今後も新車販売台数を大きく伸ばし続けるという状況ではなく、少なくとも現時点では、やや停滞感があると見ています。一方で、現在、大きな成長を見せているのが半導体関連市場です。ただ、われわれが注目しているのは、半導体そのものだけではありません。半導体やAIの普及に伴い、重電やエネルギー関連の需要が広がっており、それを支える部品や関連設備、新たな設備投資にも加工需要が生まれています。さらに、新規設備の立ち上げだけでなく、既存設備の更新やメンテナンスも含めれば、今後も幅広い加工需要が見込まれます。私たちは、半導体市場の成長を単に〝半導体をつくるための加工需要〟と捉えるのではなく、その周辺で生まれる新たな需要や、産業構造の変化そのものを見ながら、市場を捉えていきたいと考えています。
― 市場の変化や加工技術の高度化が進む一方で、日本の製造現場では、切削工具が生産性や収益性を左右する重要な要素であるにもかかわらず、工具そのものの価値が十分に評価されていないケースもあるように感じます。イスカルジャパンでは、現在の日本の切削工具市場やユーザーの工具に対する価値観をどのように捉えていますか。
岡田 私自身、実際に多くのお客様とお話しするなかで感じるのは、製造現場における切削工具の優先順位が、必ずしも高くないということです。「工具はどこでも同じ」「工具を変えて何が変わるのか」「結局は価格で勝負」といった感覚をお持ちの方も、まだいらっしゃるように感じます。実際、工具管理の現場を見ても、〝どの工具を、どれだけ使っているのか〟という基本的なところが、十分に把握されていないケースがあります。以前、お客様に加工改善の提案をするため、「現在、工具をどれくらい使用しているのか。金額でも個数でも構いませんので教えてください」とお願いしたところ、「これだけ購入しています」と納品書を見せていただいたことがありました。私が知りたかったのは〝購入した量〟ではなく、〝実際に現場でどれだけ使っているのか〟ということです。もしかすると、現場では〝購入した分がおおよそ使用した分〟という感覚で管理されているのかもしれません。しかし、本来はそこを正確に把握することが、工具の価値を正しく評価する第一歩だと思います。現在、切削工具メーカー各社の価格改定が相次いでいます。これはユーザー様にとって厳しい状況ではありますが、同時に、工具そのものを改めて見直していただく良い機会にもなるのではないでしょうか。〝いくらの工具を買ったのか〟だけではなく、その工具によって何が変わったのか。加工時間はどれだけ短縮できたのか、工具寿命はどれだけ延びたのか、品質や生産性にどのような効果があったのか。そうした視点で工具を評価することが、これからはますます重要になると考えています。価格はもちろん大切です。しかし、それだけで工具の価値を判断してしまうのは、少しもったいない。工具が生み出す効果まで含めて評価していただくことで、初めて本当の意味での〝価値〟が見えてくるのではないでしょうか。
― こうした工具の価値をユーザーに実感していただくためにも、今後、どのような営業や提案活動を通じて国内シェアを高めていく考えでしょうか。
岡田 まず大前提として、お客様に満足していただける製品を揃えていることが重要です。これはイスカル本社が担っている大きな強みであり、本社が製品を開発し、製造し、そして安定供給する。日本法人として、これは非常に大きなメリットです。そして、先ほどもお話しした通り、安定供給なくしてシェアアップは実現できません。現在、日本市場におけるイスカルのシェアは4~5%程度ですが、これを10%まで高めたいと考えています。そのために必要なのは、新規ビジネスの積極的な開拓です。新規の産業分野や、加工ワーク、加工領域にどこまで新たな提案ができるのか? 例えば、これまでイスカルが十分に関与できていなかった産業分野にどこまで入り込めるのか。また、これまで実績のなかった加工物や加工領域に、どこまで新たな提案ができるのか。こうした新規の市場や加工領域を一つひとつ開拓していくことが、今後のシェア拡大において重要だと考えています。メーカー単体での活動では叶いません。イスカルにとって、流通各社との多角的な視点でのコラボレーションは不可欠です。同時にメーカーである私たちがユーザー様と直接接する機会を多く持つことで、加工の現場や課題をより良く理解し、最善の提案ができる環境を整えることも重要です。メーカーとユーザー様が直に接することは、流通を介さずに直販するということを意味しません。市場における製販の役割を効率良く機能させ、ユーザー様の加工現場に新たな価値(Value)を届ける。その積み重ねによって、これまでイスカルが関われなかった市場や加工領域を一つずつ開拓し、シェアを伸ばしていきたいと考えています。


