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又貸し商売 借りパク事件考 ~言葉で印象も変わる~
「トケマッチ」事件が世間を騒がせている。トケマッチのサービスは、腕時計を借りた人が月額のレンタル料を支払い、持ち主は時計のランクに応じた預託料を受け取れる仕組み。ニュースによると866本(18億5000万円相当)の時計が未返却であり、容疑者である運営会社の元社長はドバイにトンズラしたと見られるため、警視庁は国際指名手配に踏み切ったという近年稀に見る壮大な〝借りパク〟事件だ。
元社長のホームページには「購入するよりも経済的なサブスクリプションと、売却するよりも実利的なシェアリングエコノミーを掛け合わせた、新しい形の腕時計ライフをお楽しみいただけます。」とあった。
最近は自分が購入した品を他人に貸すことを『シェアサービス』というが、なぜか、『又貸し商売』といったとたん、おびただしい昭和感が溢れ出てしまう。意味は昭和も令和も一緒なのだが、こうも言葉で印象が変わるものなのか。
この運営会社は2022年12月あたりから、メディアの露出が増え、トレンド情報満載の有名経済雑誌もテレビもこぞって持ち上げた。CMも流れている。おおまかな内容は、〝投資や副業にもおすすめ〟とか、〝日本経済を支えるサービス〟といったもので、トレンドに敏感な人物に見せかけたい大人心を無責任に掴んでいった。この時点から、カンのいい人々はなんとなく、すかしっ屁のように掴み所のない〝胡散臭さ〟を嗅ぎ取っていたと思う。こうした危険性が孕んでいる商売でも、メディアが「新しい視点を持つ経営者が斬新なサービスを提供」というようなイメージを人々に持たせて詐欺を持ち上げるのはあたしゃ感心しないね。
想像できなかった?
大手メディアの露出が増えたことでそれが安心材料となり、高価な時計を預けた人が増えたならばメディアの罪も大きい。たった2年で約18億5000万円をかき集め、そのままトンズラ――――ということから悪質な計画性も感じる。人を疑うのは良くないけれど、どんな人に自分の高級時計が使用されるかも本当のところは分からない。自分の時計がいつのまにか売られていて、戻ってきた時計が偽物だったっていうのも想像できる。こんな危険性を孕んでいるビジネスだということを安易に想像できたはずなのに残念だ。これが日本経済を支えるサービスだと本気で思っているならば、問題意識の薄さが気になるところ。
又貸しビジネスはモラルがなければ成り立たないわけで、日本の現状をみると、IT化の遅れもそうだけれど、それ以上にIT化を急ぐあまり、様々なことにツメが甘いことが目立つ。AIの進化により、なりすましの詐欺犯罪も増加、ニュースをみても分かるとおり、モラルの低下が加速している今の日本じゃ、人様の持ち物を又貸しするビジネスは、日本経済を支えるどころか、向かないんじゃないかしらね。
今回の事件、ホームページには、「豊富な経験と知識に基づき、お客様のニーズに一つ一つ的確に応え、誠実かつ謙虚に向き合って参ります。」とあったけれど、誠実さは1ミクロンたりとも感じられない幕引きとなった。赤文字で「これまでご愛嬌ありがとうございました。」で締めくくられていたのを見て、んっ? ご愛嬌? わざとなのか、慌てて誤字をぶっ放したのか――――。(←どの口がいうかってのはご愛敬)
それはともかく、この事件、今回は時計だったけれど、高級バックや高級服の又貸しビジネスも危険が伴うと思うのよ。又貸しサービスを利用する大半は経済効果を見込んで他人のものを活用するのだと思うけれど、そこまでして高級品を借りたい理由はなんだ、と思うと、なんだか貸す方も安心して貸せないと思わない? だって高価なものって頑張って手に入れた大切なものだもん、思い入れもあると思うのよ。時計や服やバッグでも「ブランド品は高いから借りるの!」っていう発想自体がさ、頑張って欲しいものを手に入れた努力を無視されたみたいで個人的には好きになれないのよね。わたしがもし、我慢に我慢を重ね、頑張って手に入れたものを他人に貸すなら、100億歩譲っても〝価格じゃなくてモノの価値〟を正しく判断できる人じゃないと貸さないわよ。っていうか、見ず知らずの方にキズでも付けられたら大変だから貸さないけどね。
最近さ、様々なビジネスが出てきたけれど、うまい話にはくれぐれも気をつけないと。どんなに有名メディアに取り上げられても、それが良いこととは限らない。正しい指針にはならないってことね。
ビジネス的だけど、売上を伸ばすために必要なことについて「最高品質の製品や最高のサービスを受け取った時の経験こそが最大の購買意欲」とスティーブ・ジョブズは言ってるよ。
今の時代必要なことは、洞察力と想像力だと思う。